【ボディガードの体験談】エピソード6|身辺警護が語るストーカー(DV対応)の現実とは?
ボディガード体験談の第6回です。
これまでは、特殊な業界である身辺警護の中でも、とくに珍しい内容を紹介してきました。
今回からは、とても身近で、しかも件数の多いご依頼の実例を、現役のボディガードに語っていただきます。
最初のテーマは「ストーカーとの話し合い」
警備料金の目安でも事例として紹介している、比較的多い案件になります。
今回は、以前にはじめてのボディガードで、若い日の現場体験を語っていただいたKさんに、ふたたび話をうかがいました。
※内容は実話ですが、個人情報保護の観点からアレンジを加えています。
K氏プロフィール
身辺警備歴21年
20代半ばに某身辺警護専門の会社に入社し現在に至る
前職は厨房機器メーカーの営業という、業界では異色の経歴
身辺警護の体験談|ストーカーとの話し合い(DVへの警戒)
Kさん本日もよろしくお願いします。
今回はテーマが決まってまして「ストーカーとの話し合い」ですが、かなり多い案件なんですか?
はい、個人からのご依頼内容ではトップ3か4に入ると思います。
Kさんのご経験の中から、多くの人の参考になりそうな事例をお聞かせください。
そうですね・・・
ストーカーには、交際や結婚後に変貌する者と、そもそも付き合ってすらいない、完全な片思いタイプがいます。
わたしの経験では、前者が圧倒的に多いです。
では元交際相手によるストーキング事例の中からお願いします。
エリアも時期も伏せますが、実際にあった案件をお話しします。
20代前半のOLさんからのご依頼です。
正確に言うと、そのお父様ですけどね。仮にA子さんとしておきましょうか。
ご依頼いただく半年ほど前に、出会い系で知り合ったミュージシャン志望の男と同棲を始めたそうです。
まぁ同棲と言っても、相手の男が勝手に転がり込んできたみたいですが・・・
すでに嫌な予感がしますね。
お察しの通りミュージシャン志望というよりは、ヒモ志望で無職のクズです。
どういうわけか分かりませんけど、そういう人間にかぎって第一印象を良く見せたり、口が達者なのが多いんですよね。
結果まんまと付き合うことになり、家にあげてしまい、そのまま居つかれてしまったと・・・そういうわけです。
居ついただけでは、すまなかったんでしょうね?
はい。
暴力は半年で2~3回ほどだったそうです。
しかし小遣いの要求と、暴言が酷かったと聞いています。
もちろんA子さんも早い段階で見切りをつけていましたが、言葉で言って出ていくような相手ではありません。
しかたなく毎日ガマンを続けていましたが、ガマンしきれるはずがありません。
最終的にお母さんに相談したそうです。
でお母さんはお父さんに相談したと?
A子さん的に、お父さんには知られたくなかったようですけどね。
やはりお父さんは知るべきです。
それにお父さんが主導で動いた方が、結果的にいろいろと早いことが多いです。
このケースではお父さんの判断で、取りあえず必要最低限な物だけ持って、実家に帰るよう指示したそうです。
まず警戒対象者とは距離をとるべきですね?
そうですね。
ケースにもよりますが良い判断でした。
幸いこの男の場合、実家がドコか?までは知らなかったのですが、電話とラインに、大量の着信がくるようになったそうです。
脅迫ですか?
最初は「俺が悪かった・・・」という謝罪、
無視すると「ぜったい見つけ出してやるからな!」という脅し。
まぁ・・典型的なストーカーです。
自業自得で捨てられて、挙句の果てに逆恨みですから、救いようがありません。
新しいスマホに変えなかったのですか?
理想は、古い電話はそのまま残して、必要な人にだけ知らせた新しい端末を持つべきです。
しかし意外とこういうことは、ご存じない方も多いですから。
古い電話番号を残す理由を教えてください。
ストーカーの場合、
たとえ細い線でも、相手とつながっているという事実が、凶行のブレーキになる事もあるんです。
一切の線を絶たれることで、絶望し思い詰めてしまう人間もいます。
もちろん少数ですが・・・
なるほど。
その後はどうなったんでしょう?
あまりにしつこいので、お父さんの指示で会うことにしたそうです。
借りているアパートもそのままにはできないので。
その話し合いの場への立ち合いで、私を含め3名が派遣されました
「会う」というお父さんの判断は正しいのですか?
この場合は結果オーライでしたが、ベストではありませんね。
理想は、
- 古い電話以外の接触方法はなくす
- 以降2度と会わない。
- 交渉は第三者(弁護士)に任せる
費用は発生しますが、これが一番安全です。
しかし今回のケースのように、会う約束をしてしまうと、少なくとも1回は会わざるを得ない事もあると思います。
ただし2回目以降の話し合いは全くの無駄ですので、伝えるべきことは一度ですべて伝えましょう。
無駄というと?
キリがないからです。
1度会えば2回目、2度会えば3回目と、際限なく会う事を要求してきます。
これはほぼ確実です。
しかも会ったところで、被害者側の得になる話は一つもありません。
なるほど。
話しがそれましたが続きおねがいします。
話し合いは住んでいたアパート近くのファミレスでおこないました。
ガードポジション(席)を確保するために、約束の40分前に入店しています。
警護の人数は3名ですか?
このケースでは3名でした。
類似の案件の場合、
2名でおこなったり、1名の時もありますけど、
万全を期するなら3名にするべきです。
もちろんご予算次第なので強制はできませんけど。
なぜ3名がベストなのでしょう?
万一の場合、取り押さえる人間が多いほうが安全なのはもちろんとして、3方向から監視できるのが、最大の利点ですね。
1方向に比べると、確実に初動のスピードに違いが出るので。
あと毎回ベストな位置に警護が陣取れるとは限りません。
ストーカーから遠い席でしか待機できない場合、危険な空気を感じたら、さりげなく近づくなどアプローチの必要があります。
しかし一人で何度も近づくと怪しまれてしまいます。
この図を見ると、立ち合いと言っても警護は同席していませんね?
依頼人とストーカーのテーブルに、一緒に座れば良いのではありませんか?
もちろん例外もありますが、多くの場合、ボディガードの存在は悟られない方が良いのです。
それにはいくつか理由があります。
- ストーカーの多く(男性)は、見ず知らずの、しかも屈強な男が同席すると攻撃的になる。
- 他の男の存在が、ジェラシー感情を少なからず刺激する
- 依頼人が怯えていることのアピールになる(怯えを見せることは交渉上非常に不利)
同席にはこれだけのデメリットがあるので、別の席から見守ることの方が多いんです。
相手がほかの男に弱気なタイプ。
つまり内弁慶というかビビりの場合はどうでしょう?
その場合でも、同席はしない方いいです。
その場はおとなしく済んでも、遺恨は残りますので。
どうしても怖いので、隣に座ってほしいなどの要望がある場合は、例えば兄弟のフリをして同席することもあります。
しかし、その後のスムーズな解決を考えると、おすすめはしていません。
なるほど。
同席しなくてもご依頼人には警護の存在を身近に感じていただけるので、心強さが全然違います。
実際「安心感で余裕ができたので、言いたいことがハッキリと言えた」とおっしゃっていただくことが多いです。
すみません、また話を途切りましたが続きをお願いします。
はい、早めに入店しベストポジションで待ち受けました。
相手が現れたのは16時10分ころ、10分の遅刻です。
身長180㎝くらい、痩せ型の20代後半の男が、不貞腐れたような表情で、娘さんの向かいにドスンと座りました。
向こうは向こうで不安だったのでしょうね。
それを悟られたくないアピールが、イキがった態度にアリアリと出ていました。
こういった案件に多いタイプの警戒対象者でもあります。
まれにですが、まるでセールスマンのように満面の笑みで近づく者もいますが・・・
それは不気味ですね
ええ要注意です。
その点今回は、非常に分かりやすいタイプと言えます。
挨拶もそこそこにお父さんが本題を切り出しました。
言うべきポイントは、あらかじめ紙にまとめており、その紙を、法律事務所の封筒からとりだし説明しました。
ちなみに私は男と背中合わせの席に座っていたので、その後の会話もすべて聞こえています。
法律事務所の封筒は効果ありそうですね。
今回の場合は、弁護士さんに相談のうえで、その場に臨んでいたので、脅しでも噓でもありません。
ただ弁護士と警察の介入は、トラブルの相手をけん制するのに効果的なのは事実です。
興奮して強気だったクレーマーが、警官の姿を見たとたん、自分の置かれた状況を理解することはよくある話です。
ただし公権力をまったく意に介さない者というのが存在します。
たとえば接近禁止令を無視して近づいてくるような相手です。
こういう相手の場合、話し合いの場を設けること自体が危険です。
襲撃のチャンスを与えかねません。
今回の相手はどうでしたか?
さらに落ち着きを失くしたように見えました。
しかし攻撃的になったりはしていません。
多くのタイプに見られる反応です。
お父さんが出した条件は3点。
- 2度と娘に近づかないこと。
- 娘のアパートから退去すること。
- ただし退去に1カ月の猶予を与える
という内容です。
男の反応は?
「出ていくにも金が要るし・・・」みたいな事をゴニョゴニョ言ってましたね。
要は金をよこせという事です。
はっきり口にはしませんでしたが・・・
そこでお父さんが「それは金を要求しているのか?」とハッキリ聞いたんです。
こうなるであろうことは、予想していましたから。
しかしハッキリそう言われると、中々カネを寄こせとは言えませんよね。
「そうではないけど、引っ越したくても引っ越す金がなくて・・・」と、また予想通りの答えを返してきました。
引っ越し代をエサにしたんですか?
いえいえ、そこまで甘い人ではありませんでした。
弁護士にも相談していましたしね。
「それはこちらの責任ではないので知りません。とにかく1か月以内に出ていかなければ、この件は警察と弁護士に任せるつもりだ」と毅然とした態度で通告していました。
これは人によって反応が大きく変わる瞬間ですね。
その通りです。
これによって追い詰められる人間もいますので。
一種の宣戦布告ですからね。緊張の瞬間です。
彼はどうしましたか?
小さな声でしたが「分かりました・・・」と敬語でこたえました。
そうするとお父さんが、「先立つものが無いと動きようもないだろうから」と言って封筒を渡しました。
中身は数万円の現金です。
そんな必要ありますか?
私もそんな必要ないのでは?と、あらかじめ伝えました。
弁護士さんにも言われたそうです。
ただお父さんが言うには、「手切れ金の意味も含んでいるので、これで遺恨がなくれば安いもの」というお考えでした。
意外とこう考える方は少なくありません。
相手がそう感じるとは限りません。逆に調子に乗る可能性もあります。
その通りです。
あぶく銭を、有効に使うような人間ではないでしょうからね。
逆に味をしめて、再びたかりにくる可能性もあります。
弁護士さんにも同じような事を言われたそうですが、ご本人がそうすると決めた以上、仕方がありません。
さいわい今回のケースでは、悪い方向には転ばなかったようですが・・・
ではこれで終了ですか?
はい、無事終了です。
そのあと念のためご自宅までお送りして、そこで完全に警備を解除しました。
そういう事なので我々の出番はありませんでしたね。
相手もボディガードがいたとは気付いていないはずです。
これは「ストーカーとの話し合い」においては、よくある終わり方なのでしょうか?
ええ多いです。
というかよくある終わり方を選んでお話ししました。
多くのケースでは、ボディガードは何もしないまま、相手にも気が付かれないまま終了します。
会う場所も一番多いのが、ファミレスや喫茶店です。
周りに人が多い場所のほうが、相手が極端な行動に出にくいですから。
あと女性ストーカーとの話し合いに立ち会うこともありますが、男のストーカーによる被害のほうが圧倒的に多いです。
平穏に終わらないケースもあるんでしょうね?
残念ながらあります。
約3割のケースでは平和に終わりません。
そもそも紳士的な行動を期待できる相手ではありませんので。
その場合はどうされるのですか?
たとえば、怒鳴ったり脅したりと、言葉だけですんでいる場合は、
なるべく介入はしません。
のちのち、その場での相手の言動や凶暴性が、
依頼人にとって有利な証拠にもなりますので。
ただし、大きな声すら、耐えられないほど怯えている方もいらっしゃいます。
一度話し合いが始まると、介入のタイミングは警護に一任されますので、
どのタイミングで立ち入るか?は最初に決めておきます。
当然暴力の気配を感じたら、立ちふさがりますが、「善意の第三者のふり」が通じるかぎりは、それで通します。
実際暴力にまで発展してしまうと、最終的に身分を明かさざるをえませんが・・・
ところでストーカー関連のばあい、
話し合いの同席以外の警護はしないのですか?
もちろんご依頼いただければ、それ以外の場面でも警護いたします。
ただストーカー関連のご依頼人は、一般の方が大多数です。
たとえば通勤の送り迎えをするだけでも、毎日となるとそれなりの料金が発生します。
これを個人でお支払いただくのは大変です。
なので最も危険な話し合いの場のみ警護をおこなうケースが多いんです。
そもそも長期にわたって警護が必要なストーカー被害というのは、そう多くはありませんので。
本日もありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
被害者にとってストーカーとは、一生会いたくなく、会う必要もない人間です。
向こうには会いたい理由があるかもしれませんが、こちらにとって会うメリットは一つもありません。
むしろ1度会ってしまった事で、2度3度と求めてくる可能性があります。
そうなると解決への道は遠ざかるだけです。
ストーカー対応については過去の記事でも解説していますので、ご覧ください。
ストーカー・DV|接近禁止令の効果と申告すべきか?の判断
ストーカー・DV被害|身辺警護があなたを守ります
多くのケースでは、解決までに、心理的・物理的距離と時間の経過が必要です。
いくら相手が望んでも、ストーカーと会うことはおすすめしません。
しかしどうしても会わなければならないご事情がある方もいるでしょう。
そのようなときは、身辺警備に相談なさるのも一つの方法です。
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
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