【ボディガードの体験談】エピソード7|葬儀場での骨肉の争い
![相続争い](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2020/06/993375.jpg)
ボディガードの体験談7回目になります。
前回からは、一般の方にとっても身近なご依頼内容を紹介しています。
ボディーガードの体験談一覧
今回は葬儀の場での警護について。
ボデタンナビの警備料金の目安でも紹介している内容です。
冠婚葬祭は、普段は滅多に会わない人が顔を合わせる場所。
うれしい再会ばかりではなく、
中にはトラブルになりかねない、因縁の顔合わせもすくなくありません。
今回も実際にあった警護の現場から、一つの事例を紹介します。
詳細は、トカレフの男と柳葉包丁の襲撃者でも実体験をお話しいただいた、M氏にうかがいました。
結婚式をふくめて、
セレモニー中のトラブルに関するご相談は、たいへん多いご依頼のひとつです。
※内容は実話ですが、
個人情報保護の観点からアレンジを加えています。
M氏プロフィール
25歳のとき某身辺警備会社に入社、警護歴27年。
前職はアパレル系と、業界では珍しい経歴の持ち主
身辺警護の体験談|葬儀場での骨肉の争い
![なぜ必要?葬儀中のボディガード](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071501.jpg)
今回のテーマは、お葬式や結婚式など「式典での警護」ですが、
なぜそのような場で警護が必要になるのでしょうか?
まず共通して言えるのは、
そういった場所では、
普段は会う機会の少ない親類縁者が、一堂に会するという点です。
もちろん多くは、再会を喜ぶ仲ですが、
中には二度と会いたくない者同士という事もあります。
しかもそのような場ですので、欠席するわけにもいきません。
これまで避けていた相手と、会わざるをえないのです。
ではその中から、参考になりそうな事例をおしえて下さい。
はい、ではあるご兄弟の事例をお話しします。
当事者の関係が「兄弟」というのは少なくありませんので。
その現場は、ある高齢の女性の通夜と告別式でした。
時期や場所についてはご容赦ください。
丁度いまのようなジメジメした季節のことです。
依頼人はその葬儀の喪主で、53歳の男性。
故人の長男です。
その方には4歳下の弟さんがいました。
今回の警戒対象者ですか?
![兄と弟、十数年ぶりの再会](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071502.jpg)
そうです。
お二人とも結婚していましたが、弟夫婦に子供はいないとのこと。
今回の依頼人である兄夫妻は、
長年にわたって、近所に住む母親の世話をしていたそうです。
一方弟さんは他県に住んでおり、
15年以上会ってもいないし会話も無いとのことでした。
よほどの理由があったんでしょうね?
金銭問題ですか?
詳しくは知りません。
しかしお金の話では無かったようです。
ご依頼人には既に成人した娘さんがいましたが、
原因は彼女と弟、つまり彼女にとって叔父とのトラブルの様でした。
それは相当デリケートな問題を含んでいそうですね?
![兄弟の確執](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071503.jpg)
はい。
なので私も詳細は聞いていません。
ご依頼人も話したく無さそうでしたので、あえて聞く必要はありませんでした。
とにかく大変な確執がある弟と、葬儀の場で会わなければならないと。
しかも
「弟は自分に恨みがあるので正直会うのが怖いくらいだ」
とおっしゃっていました。
さらにお母さんが他界されたことで、
財産分与など、否が応でも面倒な会話が発生しそうですね。
そうですね。
ただし、その辺のやり取りは弁護士に一任する予定なので、
「弟と直接なにかを話す必要はない」
とおっしゃっていました。
お母様も二人の関係は十分に理解していたので、
財産分与で揉めないような整理の仕方をしていたそうです。
そうはいっても母親ですからね。
息子二人が疎遠どころか犬猿の仲なのは、お辛かったでしょうけど・・・
では具体的な警備の方法をお聞かせください。
![葬儀の警護とその内容](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071504.jpg)
まず本件の警備主旨は、
「葬儀の円滑な進行」です。
そのためにも、なるべく弟さんを依頼人に近づけない必要があります。
具体的に言うと、
- 弟の動向の監視
- 必要以上の会話を求めたり、攻撃的な兆候が見えた場合は速やかに会場の外へ連れ出す。
この2点がミッションになります。
そのためにも、
相手の気持ちを逆撫でしないことは必須です。
こういった案件では、警備であることを前面に出すものでしょうか?
この案件は、私1名でおこないましたが、
警備であることを匂わせないために、参列者のフリをしています。
もし弟さんに、私の身分を聞かれた時は、
依頼人の「会社の部下」という事で口裏を合わせることにしました。
葬儀の手伝いに来た人間であれば、
式場を動き回っても、依頼人と会話をしても不自然ではありませんし。
先ほど述べたように、式典中トラブルに発展したばあい、
弟さんを速やかに会場から退出させるのも重要な役目ですからね。
その場合、警備と名乗らない方が良いこともあるので。
トラブルになった場合、なるべく大ごとにならない様にすると?
![トラブル発生率20%以下](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071505.jpg)
そういうことです。
ただし何事も起きず、無事に終わるケースのほうが多いですが・・・
何も起きないケースのほうが多いのですか?
そうですね。
実際に何らかのトラブルが発生するのは、2割以下でしょう。
ほとんどのケースでは、我々の出番はなく終了します。
そしてそれがベストなのです。
今回のケースではどうだったのですか?
まったく問題のないケースだと、これ以上話すことがありません。
なので稀に起きるトラブルの中でも、発生しやすい状況についてお話します。
ではお願いします。
![警護力とマンパワー_マンパワーとコスト](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071506.jpg)
本来こういった案件の場合、2~3名でおこなうことが多いのです。
しかし今回のケースでは、ご予算の都合で1名体制になりました。
1名でも問題はないのですか?
問題がないというと語弊があります。
3名にくらべて明らかに警備力が落ちますので。
このような第三者が大勢いる場所での警護は、
相手が暴れた場合に、無関係の人を巻き込まないように、
迅速に取り押さえる必要があります。
そのためにも1人より2人、2人より3人と、
警護を厳重にすることが理想です。
しかし予算など、クライアント個々に事情がありますので、
警備規模などは、可能な限りご要望に応じています。
一名では到底ムリな内容もありますが・・・
なるほど、では今回の内容をお聞かせください。
![警護の詳細](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071507.jpg)
はい。
警護は、通夜と翌日の告別式の2日間。
両日とも私が担当しました。
問題が起きたのは、初日のお通夜のときです。
ちなみに通夜も告別式も、メインの会場は同じセレモニーホールです。
規模はあまり大きくなく、
ご近所さんと思われる参列者が中心の、50名ほどのお式でした。
通夜の開始は18時でしたが、
念のため2時間前、16時に上番(警備開始)しています。
ただ弟さんが到着したのは思っていたよりも遅く、17時30分ころでした。
理由はわかりませんが、奥さんは同伴しておらず、1人で見えられました。
夫婦二人か旦那さん一人。
警備的にはどちらの方が都合よいのですか?
これは奥さんの性格によるので一概に言えません。
旦那さんをいさめるタイプの方もいれば、一緒に騒ぎ立てる人もいるので・・・
それはそうですよね。
遮ってすみません、続きをお願いします。
![兄と弟、15年ぶりの会話](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071508.jpg)
お焼香と読経のときは、
お兄さん・弟さんともに親族席に着席しています。
故人の息子なので当然ですね。
ただし弟さんの席は、
なるべく兄夫妻から遠い位置にしてもらうように、
式場側に配慮してもらいました。
しかし読経中はもちろん、
その後別室でおこなった参列者への食事の振る舞いの席でも、
彼が近づいてくることはありませんでした。
弟さんが依頼人に近づいてきたのは、
一般の参列者が全員引き上げたあと。
親族一同も会場を後にしようとしていた時です。
緊張の瞬間ですね。
その日初めて、お兄さんと話すために近づいてきたので、
私もそれとなく移動しました。
万一の際は制止するためです。
弟さんは前置きもなく話し始めました。
内容は、葬儀費用の一部を自分も負担するという打診です。
弟さんからすれば当然の感情でしょうね。
![母の通夜と兄弟げんか](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071509.jpg)
そうですよね。
この段階で割って入るのは早すぎるので、
すぐに介入できる位置で様子を見守りました。
具体的にはどの位置ですか?
弟さんの1,5mほど後ろです。
依頼人は弟さんの申し出に対して、
「弁護士と話してくれ」と、そっけなく言いました。
弟さんも弁護士のことは承知しているようでしたが、
言い方が気に食わなかったんでしょう。
カバンから分厚い封筒をだして
「こんな事でいちいち弁護士なんか通していられるか!受け取れよ!」
と語気が荒くなり始めました。
気持ちは分かりますが、お兄さんの言い方も良くないですね。
当然お兄さんは受け取らず、押し問答が5分以上続きました。
最終的には双方ともに、かなりの怒鳴り声になり、
おどろいた職員数人が見に来るほどでした。
Mさんはどうされたんですか?
![ケンカの仲裁、タイミングが大事](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071510.jpg)
とりあえず様子見を続行です。
この時点で会場には15人ほどがいました。
しかし一般の参列者はお帰りになっていたので、
残っているのは、事情を知っている親族だけです。
そんな状況なので、
あせって私が間に入る必要は無く、
むしろこじれさせかねないと判断しました。
また依頼人とは事前に、
助けが必要なときの合図も打ち合わせています。
もしも必要な時は私をみて数回うなずく。
逆に必要無い時は首を横に振る、と。
依頼人は首を振っていました。
翌日も会わなければなりませんしね。
そうなんです。
弟さんも揉めるのは不本意だったと思うんです。
ただしこうなると売り言葉に買い言葉。
一度振り上げた拳をおろすのは簡単ではありません。
他のご親族も「ではまた明日」と、帰れる空気ではありませんでした。
そこで差し出がましいかとは思いましたが、
わたしが間に割って入り
「ここではなんだから、別室で話されたら如何ですか?」
と、半ば強引に別フロアの親族控室に案内しました。
個室でゆっくり話しをさせたと・・・
それだと長丁場になりませんか?
![振り上げた拳は自力では下ろせない](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071511.jpg)
その心配はありませんでした。
会場に居られるのはあと30分ほどなので。
いずれにせよ、それ以降は外に出なければならないので。
しかも周りに人がいると、二人とも引くに引けません。
そこで私も立ち会い、話しを続けてもらいました。
弟さんはⅯさんが誰か聞かなかったのですか?
ええ、
それどころか帰り際にお礼を言われました。
どうやらセレモニーホールの職員と思ったようです。
そこでは15分ほど話しましたが、
結局それ以上揉めることはなく、
葬儀費用の件は、後日弁護士に相談する事になりました。
随分簡単に落ち着きましたね?
![暴力は手段であって目的ではない](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071512.jpg)
いくつかポイントがあったと思うんです。
まず最初に大声で怒鳴りあった点。
その後に場所を変えて仕切り直した点。
あと第三者の私が立ち会った点です。
どういうことでしょう?
最初の怒鳴りあいは、二人の感情のピークでした。
その勢いを放置すると、どちらも引くに引けなくなります。
暴力沙汰というのは大抵回避できるものなんです。
逮捕されたり刑務所に行くことなど、本来は誰も望んでいませんので。
場所を変えた理由には、時間をおいてクールダウンさせる狙いもあったんです。
なるほど!
別フロアの控室に案内した理由はそれだったんですね?
別フロアだったのは偶然です(笑)
しかしインターバルの時間を、少し多くとれたのはラッキーでした。
因みに控室までの移動中に、
「声のトーンを二つほど落とすと、弟さんも冷静になりますよ」と、お兄さんには伝えました。
なるほど。
さらに第三者が、目を光らせているとなると、なかなか暴力に発展しにくいものです。
なるほど…
よく考えられた作戦だったんですね?
![言い方ひとつで結果は変わる](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071513.jpg)
どうでしょう(笑)
この場合はうまくハマりましたけど・・・
まぁあくまで理想論ですね。
しかし暴力の多くは売り言葉に買い言葉で始まります。
つまり言葉に気を付ければ、多くの被害は避けることができるのです。
翌日の本葬儀ではトラブルは起きなかったんですか?
はい。
告別式は翌日の10時から15時頃まででしたが、
弟さんが話してかけきたのは、帰りぎわの挨拶だけです。
少し切ないですね・・・
しかし現場的にはこれで終了したと。
![まれとはいえ、深刻な事案は存在する](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071514.jpg)
そうですね。
初日に小競り合いが起きてしまいましたけどね。
このようなセレモニー関連の案件は多いですが、
小さなトラブルすら起きないケースがほとんどなので。
実際にトラブルが起きるのが2割以下でしたっけ?
そうすると、深刻な暴力にまで発展するのは本当に極わずかですね。
正確には分かりませんが、全体の3%以下でしょう。
しかし僅かとはいえ、そういった事案も確実に存在します。
分母・・・つまり需要が多い依頼内容だからこそ、
一切油断できません。
似たような案件で、今までに大きなトラブルが起きたことはありますか?
![中にはこんな事例も・・・](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/2021071515.jpg)
ナイフを手にした男が乱入して、警察沙汰になった事がありました。
その時は、会場に入る前にエントランスで取り押さえましたので、
幸いケガ人は出ませんでした。
それも葬儀関連ですか?
いえ、結婚式です。
新婦の分かれた元彼でした。
要はストーカーですね。
いずれ機会がありましたら、その話も聞かせてください。
いかがだったでしょうか?
M氏の言葉にもあったように、実際に暴力や刃傷沙汰に発展するの極わずか。
しかし前回のストーカーとの話し合いとは違い、相手とは切っても切れない関係。
勘当だ絶縁だと言っても、生涯会わないというわけにはいきません。
その分ストーカー以上に配慮が必要なうえ、近似のご依頼内容の多い案件です。
警護のご依頼にお悩みの方の、参考になれば幸いです。
![加藤 一統](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2020/06/kato03.jpg)
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
ボディガードと探偵の依頼先をお探しの方に、条件やご要望に合う優良な警備・探偵会社を無料でご紹介。
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