【ボディガードの体験談】エピソード9|会社役員の身辺警護
ボディガード体験談の9回目。
これまでは個人の方からのご依頼を、おもに紹介してきました。
今回は、法人様からのご依頼。
その中でも最も多い「役員の身辺警護」について。
ボディガードと言えば、財界の大物や、著名人の警護を想像される方が多いのではないでしょうか?
実際に会社社長や役員の警護は、黎明期より身辺警備業界を支える案件のひとつ。
今回は、以前に身辺警護の体験談|自分から自分を守りたい依頼人で、生々しい体験を語っていただいたⅠ氏に、ふたたびお話をうかがいました。
Ⅰ氏プロフィール
45歳 身辺警備歴18年
元陸上自衛官 レンジャー課程修了。27歳のときに民間の警備会社に転職。
現在までに、数多くの 身辺警護の現場に服務。
身辺警護の体験談|会社役員の身辺警護
今回は会社役員の身辺警護の中から、ご経験を聞かせていただきたいのですが。
数が多くて、どのケースを選ぶかが難しいのですが・・・10数年前におこなった9人態勢の警護の話をしましょう。
1つの現場で警護が9名ですか?
国内のボディガードとしては、かなりの人員ですね。
そうですね。
それだけの規模の身辺警備は、そう多くありません。
そもそも一日に9人を派遣できる会社が、今はほとんど存在しませんからね。
しかもその現場は、交代要員まで入れると、トータルで15人が1日に必要だったと記憶しています。
どういった編成だったのですか?
まずは3名の役員(会長・社長・専務)にボディガードが1名づつ。
これは平日のみで、8時から19時まで。
それとは別に、3名のご自宅にも24時間体制で警護を配置していました。
これは各2名体制、12時間交代です。
つまり「3現場×2名×2シフト」なので、
ご自宅の警備だけで、1日に12名が必要でした。
それは手配する会社も大変です。
期間は長かったのですか?
トータル半年ほどでしたかね・・・
しかし途中で危険度が下がり人員も削減したので、15名体制の期間は2カ月弱だったと思います。
ところで、どんな内容の警護だったのでしょう?
あまり多くは語れないのですが、内容的には一般的なケースでした。
○○駅前に○○の大型な○○をつくる計画があったんです。
かなり大きな計画でしたので、地元で大きな権限のもつA社が中心になって誘致をおこなっていました。
そのA社こそがクライアントです。
しかし当時こういった事業をすすめる場合、ヤクザが黙っていることは、まずありません。
ヤクザとしても、大きなジョイントベンチャーみたいなものなのでしょう。
そこで脅し役と思われる極道、仲介役と思われる極道など、幾つかの裏社会組織が、クライアントに接触してきたんです。
一般企業が裏社会の人間と絡むことは、当時すでにコンプラ違反でした。
たぶん○○が多すぎて、ご覧の方には何のことだか分からないと思います。
因みにクライアントさんの業種はなんですか?
すみません。
業種も言えません。
しかし話の大筋は理解いただけると思いますよ。
シンプルに順を追って説明すると、
- 甲という極道が「わしらに断りなく商売始める気か!」と脅してくる。
- 乙という組織も「わしらも絡ませろや」と更にプレッシャーをかけてくる。
- 丙という極道が「お困りのようだから、甲乙を排除してあげましょう」とすり寄ってくる。
ちなみに甲乙丙は、全て裏でつながっています。
つまり三者でうまい汁を吸おうとしているわけです。
警察への相談はなかったんですか?
もちろんしています。
この時点で暴対法の施工から既に10年以上。
企業からヤクザへの利益供与は、大きな社会問題として認識されていました。
しかし、この時点では犯罪の要件に該当する被害は受けておらず、警察としても動ける段階ではありませんでした。
あと暴力団に対する姿勢や温度も、警察署によって結構ちがうんですよね。
この辺は今回の話とは関係ないので触れませんが・・・
以前もその辺は話題になりました。
実体験!或る身辺警護員の忘れられない体験
そんな状況だったので、民間の警備会社である我々に警護の依頼がきたんです。
Ⅰさんのご担当はどのポジションだったのですか?
会長の身辺警護です。
あと人手が足りなかったので、週に2~3回は各所の私邸警備にも入りました。
私邸警備というと、クライアントさんのご自宅の警備の事ですね。
そちらにも入ったのですか?
完全に人員不足でしたので。
多少スケジュールに無理があっても、大抵の警備会社は強引に穴を埋めていきます。
そのシワ寄せは、我々現場がオーバーワークで吸収します(笑)
その辺の不満は無かったのですか?
わたし個人的にはありませんね。
好きでやってる仕事ですし。
その分の給料は出ますし。
嫌なら転職すればよいだけでしょう。
それはそうですね。
では具体的に、どんな事が起きたか教えてください。
では一日の流れから話します。
毎朝07:45に会長のご自宅に到着すると、
ほぼ同じ時刻に迎えの車がやってきます。
役員は全員、運転手付きの社用車での移動なんです。
玄関前でドアが開くのを待つと、毎日8時ちょうどに奥様に見送られた会長がお姿を見せます。
その後、車で20分ほどの会社に向かいますが、会社近くの神社に参拝するのが毎朝のルーティンでした。
出社してからは、我々警護用の待機室があり、秘書の女性から各自にその日のスケジュールが教えられます。
その後は会長の行き先すべてに同行し、夜7時か8時位にご自宅までお送りして終了というのが大まかな流れです。
これは3名ともほぼ同じでしたね。
なるほど、法人の身辺警護として、まさにオーソドックなケースですね。
警護期間中に、なにかトラブルはありましたか?
警護開始から10日後に、○○エンタープライズという会社から面会の申し入れがありました。
先ほどの説明に出てきた「丙」というヤクザです。
本来だとアポを受ける必要はありません。
しかしこの時は会長の指示で受けることにしました。
警察からのアドバイスですか?
そのとおりです。
ここで相手がボロを出せば解決がスムースですからね。
3名の私服警官がモニター付きの別室で待機し、万一の際は現行犯逮捕する手はずでした。
Ⅰさんはどうされたんですか?
応対は企画室長と営業部長がすることになりましたが、私も社員の一人という事で同席しています。
役員の方々は同席されないのですか?
しませんよ(笑)
特に指名もありませんでしたし、あったとしても出席する事はなかったと思います。
わたしは会長のボディガードですが、応対する二人があまりにも不安だろうという事で立ち会うことになったんです。
役員命令ですか・・・サラリーマンはつらいですね。
話し合いの様子をおしえて下さい。
午後1時、約束の時間丁度にスーツ姿の2名が来社しました。
お出迎えと応接室への案内は、私がおこなっています。
歳はふたりとも40歳前後、風体は「いかにもヤクザ」という感じではありません。
しかし一般のサラリーマンとは明らかに違います。
応接室にお通しすると、中で待っていた企画室長と営業部長が名刺を渡しました。
しかし相手は名乗るだけで、自分の名刺を出すことはしませんでした。
Ⅰさんの名刺は要求されなかったんですか?
されませんでした。
訊かれたら社員と名乗るつもりでしたが、私については一切触れてきませんでしたね。
そして席に着くなり本題です。
ちなみに相手の要求は、
「いま甲と乙の両方のヤクザ組織と話をつけている。
上手くまとまりそうだが、ここから先はお宅(クライアント)の協力が必要だ」と、
簡単に言うとこんな内容です。
「協力」とは暗に金を出せと言っているんですね?
そう言うことですね。
スムーズに話を運ぶためには、甲と乙に金を包む必要があると。
こういう筋書きです。
しかし企画室長は、
「仲介をお願いしたことは無いし、お願いする気もありません。
今後の対応は警察にお任せしていますので、ご心配いただなくて大丈夫です」
と返しました。
そうすると相手は、
「しかし警察も渡世の義理までは強要できない。
蛇の道は蛇にまかせなさい。後々面倒になりかねませんよ」
と、いうような事を言ってました。
相手の態度はどうでした?
眼光こそ鋭かったですが、言葉を荒げる様なことは一切ありませんでした。
おそらく私が同席した時点で、いろいろ悟っていたと思います。
名刺を出さなかったのも意図しての事でしょう。
最後まで訊かれることはありませんでしたが、多分わたしを警察の人間と勘違いしていたと思います。
もしかしたら、別室に警察がいる事も、察していたかもしれません。
随分と鋭い相手ですね。
応対した企画室長が、実に毅然としていましてね。
普通の人が極道を前にして、あの自信のある態度はムリです!
相手も玄人ですから。
何かを察したとしてもおかしくありません。
別のインタビューにお応えいただいた方が、ストーカーとの話し合いに、警護が同席するメリットとして、心の余裕を話していました。
身辺警護が語るストーカー(DV対応)の現実とは?
まったく同じだと思います。
心にゆとりがある分、毅然とした態度で話し合いに臨めます。
多くの方は不利な心理状態のまま席に着き、相手にペースを掴まれてしまいますので。
シビアな話し合いにおいて、相手に不安を悟られたら勝ち目はゼロです。
ではこの日の面談はこれで終わりですか?
はい。
というか、この日以降、一切コンタクトはありませんでした。
報復的なこともなかったんですか?
ええ。
おそらく「この会社からは1円も引き出せない」と判断したのだと思います。
早い段階でそれが分かったので、先方のダメージも少なかったのでしょう。
もしこれが、仕込みから長い時間が経過していると、金も労力も注ぎ込んでいる事になります。
一円もむしり取れませんでしたでは、彼らも引くに引けなかったはずです。
何事も早期対応がカギですか。
大抵の人は、時間と金を注ぎ込むと、回収するまで動きを止めませんからね。
最悪の場合、死人が出ます。
では本件はこれで一件落着と。
しかし、その後もしばらく警護は続いたんですよね?
はい、トータルで半年間おこないました。
「脅迫は無くなってからが危険の始まり」という事が少なくありませんし。
かなりの大規模プロジェクトだったので、あらたに別の「ヤカラ」に目を付けられる恐れもあったので。
「脅迫は無くなってからが・・・」というのは、どういう意味ですか?
訴訟でもそうですが、脅しやトラブルの真っただ中というのは、ある意味安全なんですよ。
脅しのメカニズムは単純です。
「要求をのめ!さもないと不利益を被るぞ!」
というロジックですが、
逆に言うと「要求さえ呑めば、何もしないよ(笑)」とも受け取れます。
つまり脅迫というのは、相手にとっては交渉の最中でもあるんです。
そんな時に暴力を振るっても、何も得がありません。
つまり脅迫が止んだ後や、止んだ理由によっては、前にもまして警戒が必要という事ですね?
そういうことです。
今回のケースだと、こちらにその気はなくても、相手は「メンツをつぶされた」と感じている可能性があります。
相手がヤクザの場合、顔を立てることは重要なので、この辺も配慮しなければいけません。
なるほど。
今回のケースのように、平穏に終わるケースというのは、どれくらいの割合なのですか?
法人の役員や有名人の警護ですと、9割以上は大きな問題が起きずに終わります。
個人の方のご依頼に比べると、トラブルは少ない印象です。
なにが個人と違うのでしょうか?
私見ですが、おもに3つ理由があると思います。
- 法人への脅しは、相手の目的が金銭であることが多い。
カネが目的の場合、成功率が低いほど諦めやすくなります。
逆にストーカーや個人的な恨みの場合、損得ぬきで襲撃する者も珍しくありません。
そういう相手は後先を考えていないので、むしろ危険です。 - 警護体制が強固
単純に個人の方よりも法人のほうが、警備に割り当てられるコストが高い傾向があります。
費用が上げればそのぶん警護体制も強固になるので、おのずと安全度が上がります。 - 介入のタイミングが早い
2に通じますが、法人の場合は、当然個人よりも予算が組みやすいですよね。
分かりやすく言うと、
「ちょっと危険かも?」というような、普通であれば依頼をためらう段階でのご依頼が多いんです。
大抵のトラブルは、早い段階で手を打てば大きくなりません。
逆に個人のご依頼の場合、深刻な状況になってからご依頼いただく事が多いので、解決まで時間がかかります。
非常に分かりやすいですね。
ただし法人や有名人の場合、もし事件化すると大きな問題として取り上げられます。
なるほど。ありがとうございました。
次回も引き続きⅠさんに話をうかがいます。
冒頭でも触れたクライアントのご自宅の警護「私邸警備」についての話です。
これも身辺警備業界では、たいへん多いご依頼のひとつです。
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
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