【ボディガードの体験談】エピソード3|或る身辺警護員の忘れられない体験:前編
![赤と青の炎](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/4131434_s.jpg)
今回は、ボディガード歴25年のベテラン、O氏の話をうかがいます。
これまで数回にわたり、現役ボディガードの方々に、はじめての現場での、貴重な体験を語っていただきました。
今回のO氏には、初現場の話ではなく、「ある事件」の話を、お聞かせいただきます。
彼の長いキャリアにおいて、決して忘れられない現場とは、ドラマのような、激しく驚きの体験談でした。
※関係者への配慮から、一部アレンジを加えましたが、内容はすべて日本国内で発生した実話です。
或るボディガードの忘れられない体験:前編
本日はおいそがしい中、ありがとうございます。
まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?
![自己紹介](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012701.jpg)
Oと申します、本年で55歳になります。
身辺警護歴は25年になりました。
前職が自衛隊のレンジャーだったこともあり、
その経験と警護で培った手法をあわせた、
「セキュリティースクール」の運営もしております。
これまでは、ベテランボディーガードの方々に、
初現場の体験談を、きかせていただきました。
しかしOさんには、忘れられない現場があるとの事なので、
その体験をお話しいただきたいのですが。
もう20年ほど前になります。
当時わたしは、ある身辺警備会社で警護隊長を任ぜられていました。
そのころ都内のある宗教法人から、
関係者の身辺警備と自宅の警備、法人の施設警備をご依頼いただいたんです。
たまに宗教法人のご依頼は耳にしますね。
比較的多い案件なのですか?
![宗教法人からの依頼](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012702.jpg)
そうですね。
とくに昔はいくつもの団体から、ご依頼いただきました。
宗教法人は非課税なこともあり、金銭的な誤解を受けることが多いんです。
そのせいで、ふとどきな輩に目を付けられることが少なくありません。
どんな依頼だったのですか?
一言でいうと、組織の利権あらそいです。
まず今までのトップに変わり、
新しい人に変わりました。
それに伴い、昨日まで出入りしていた業者(仕出し屋・石屋・花屋など)も、
新トップの息のかかった業者に一新されたんです。
旧トップと旧業者たちは激怒しますよね。
なにせ生活がかかっていますから。
しかし彼らの打った手がなんとも悪かった・・・
暴力団に事態の解決を相談したんです。
つまり「宗教法人 対 暴力団」という構図ができあがったと・・・
具体的にはどのような警備を行いましたか?
![宗教vsヤクザ](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012703.jpg)
当初は制服組をふくめた5名ほどで、
トップの身辺・法人の施設・トップの自宅を、それぞれ警備しており、
最盛期にはトータル20名体制にまで膨らみました。
時期によって人数の増減はあったものの、
トータルで約二年もの長期警備になったんです。
ずいぶん長いですね!
国内のこの手(反社からみ)の警備で2年間というのは珍しいです。
それだけ内容が根深く、
一筋縄でいかない相手だったということです。
この2年間で、
普通の警備員が一生かけても遭うことのない経験をしました。
普通の警備でも2年もあれば、何かしらトラブルが起こるものです。
この内容だと、さぞ多くの事件があったのでは?
大きな事件については、後で語りますが、
細かいのはキリがありませんね。
「寺に入れろ!入れない!」で殴られるなんて、しょっちゅうでした。
あとは、火炎瓶を放りこまれたり、
クルマで門を突き破って、敷地内を暴走されたり・・・
ちょっと待ってください!
サラッと言いますが、どれも警察が介入するべき事件ですよ?
![無法地帯](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012704.jpg)
ええ、そうですよね(笑)
そうだ!まず話さなければならないことがあります。
この案件では、ほとんど警察が機能していない・・・
というかあてに出来ませんでした。
もちろんコトが起こるたびに110番通報はしていますけど、
まともな対応をしてくれるようになったのは、
のちにお話しする事件が起きてからです。
ただ事ではありませんね、詳しく教えていただけますか?
通常身辺警備をおこなう場合は、現場の所轄警察に
「こういう警備を実施しますので、お見知りおきください」
と、事前に報告します。
義務ではありませんが、
後々にトラブルが発生した場合に話が早いですし、
まともな身辺警備会社は必ずおこないます。
つまり万一事件が発生したときの予防線ですね。
警視庁自体が推奨していますね。いわば業界の慣例です。
![頼れるのは己のみ](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012705.jpg)
しかしこの案件の所轄署は、挨拶にうかがった時から、
こちらに好意的でないというか、この現場自体に否定的というか・・・
とにかく妙な態度でした。
どういうワケでしょう?
マルボウがらみだとヤル気になる警察も多いですけどね?
どうやら署長が面倒な案件に消極的だったようですね
ホントのところは分かりませんが、
定年が近かったのか?キャリアに傷をつけたくなかったのか?
そんなところだと思います。
どこの警察署ですか?
いや、それは言わない方がいいでしょう(笑)
もう20年も前の話ですし、
当然いまは署長さんも別の方ですから。
話はもどりますが、
細かい事件の数々とやらを、もう少し聞かせてください。
![日本で一番ハードな現場](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012706.jpg)
先ほど話したように、殴られることは珍しくありません。
こちらが手を出せないような、ギリギリの嫌がらせが、
毎日のように起こりました。
あとは先ほども言いましたが、火を使った攻撃が多かったですね。
警護対象の施設には、複数の建物がありましたが、
その多くが木造で、
クライアントにとって、何より恐ろしいのは火事だったんです。
しかし相手にとっても、
本当に火事になったら元も子もないんですけどね。
ところで警護対象の敷地は相当広かったのですか?
ああ、そうですね。
想像されているよりも相当広いと思いますよ。
おそらく1万坪以上ありますから。
それはすごい!
地形や建物の配置にもよりますが、
少人数で監視できる広さではありませんね。
ええ、そのため最盛期には総勢20名にプラス、
モニター室を設けて、カメラによる監視もおこなっていました。
他にはどんなトラブルがありましたか?
![日々是修羅場](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012707.jpg)
いま思い返すだけで、
放火が数回
自動車による暴走が2回
巡回中の車への衝突が1回
車の爆破が1回
不法侵入や街宣車で乗り込んでくることは数え切れず・・・
また聞き捨てならない点がありましたね。
車の爆破に衝突ですか?
はい。
車の爆発が目的というより、
車に放火した結果、爆発した感じですね。
衝突事故に関しては、
常時おこなっていた車両での定期巡回中に、
死角から、こちらの車の左脇腹に突っ込まれました。
どれもニュースになってもおかしくない話です。
たしかに。
しかし事件というのは、
警察沙汰になってはじめて表面化します。
警察がほとんど動いていない本件では、ニュースになりようがありません。
おっしゃる通り。
ニュースになっていない事件は、この業界ではたまに起こりますね。
しかしこれほどハードな現場だと、辞めるメンバーもいたのでは?
![一枚岩!](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012708.jpg)
ところがいなかったんですよ。
主要メンバーは5人でしたが、誰一人やめたいとは言いませんでした。
むしろ相手の攻撃が激しくなるほど、
こちらの闘志も激しくなったというか・・・
とにかく結束が強まったのは間違いありません。
ところで、執拗な攻撃の目的は何だったのでしょう?
敵の最終目的は「カネ」ですが、
そのためにもトップ会談の場が欲しかったのです。
しかし我々の任務は、部外者からの接触を一切断つことでした。
彼らとしては、一刻も早く交渉のテーブルを設けたいのですから、
我々警備のことを、親の仇のように憎んでいたはずです。
では、むこうがあきらめるまではエンドレスですね。
![なんとしても夏までは・・・](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012709.jpg)
ただ相手も、資金やマンパワーに限りがありますので、
一つの目安として8月中に決着をつけるというのが、
目標だったようです。
8月には法人の大事な行事があったので、
あえて多忙な時期に嫌がらせをエスカレートさせたのでしょう。
8月というと警備がはじまってから何か月ですか?
ちょうど8か月です。
その間は心身ともに、滅茶苦茶にハードでした。
しかし8月のXデーまで、
何とか警備を完遂する事ができたんです。
では大きな事件はそのあとですか?
9月に入ってからです。
8月を境に、攻撃がだいぶ落ち着き、
以前とはうって変わった平穏な日が続きました。
人がもっとも油断しやすい瞬間ですね。
![注意一秒 怪我一生](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012710b.jpg)
はい!まさにその通りです。
クライアントからの指示で、
その頃は警備人数も、5人にまで減らされていました。
最盛期の4分の一ですね。
これは人間も動物も同じですが、
「吠えている時よりも、静かになった時が危険」
という法則を無視してしまったんです。
わたしにとって一生の不覚です。
そのときに事件が起きたわけですね。
詳しくお聞かせいただけますか?
攻撃が落ち着き始めてから2~3週間後のこと。
事件の当日は夜勤だったのですが、
そのころは、士気を低下させないように、
各ポジションを見回るのが、私の日課になっていました。
各配置を見回った後、モニター室でカメラを見ていると、
何者かが、裏のカベを乗り越えている姿が映ったのです。
すぐさま現場に向かいましたが、
私が到着したとき、人影は消えていました。
侵入者対応のルールは設けていましたか?
![静かな夏の夜の出来事](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012711.jpg)
警察への通報は毎回おこなっていました。
当然そのときも入れています。
ただし警察の到着は、いつも驚くほど遅かったですが・・・
周囲を見回りましたが人の姿はなかったので、
モニター室に戻り、監視を続けました。
この日も警察はいつまでも来なかったんですね?
不審者が、カメラに映ってから20分後くらいに、
今度は先ほどとは別のカメラに、人影が映ったんです。
モニター越しのその姿は、機動隊の制服のように見えました。
「なぜ機動隊なのか?」疑問に思ったものの、
その場所に一番近い隊員に
「警察が到着したようだ」と無線連絡を入れました。
私もそちらに向かおうと、
モニター室をあとにしたのですが、
その直後、
部屋を出て30秒くらいだったと思います。
まず最初に「パン‼」と1発、
その後「パン‼パン‼」と続けざまに2発、
数十メートル先の、2度目に人影が写った方向から、
乾いた発砲音が響きました。
銃声ですか!?
![銃撃と凶弾](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012712.jpg)
そうです。
反射的に音のした方向に走りました。
細かい導線はややこしいので、説明をはぶきますが、
現場に向かう途中、
15mくらい先に、走って逃げる若い男の背中が見えたんです。
そのまま正門の方向へ逃げる男を追跡しましたが、
正門を出て50メートルくらい先の十字路で見失ってしまいます。
追跡をあきらめて、
銃声の現場に急いで引き返しているその途中、
わたしの右前方の角から、
50歳くらいのパンチパーマの男が、
鉢合わせ寸前のタイミングで飛び出してきました。
侵入者は2人組だったんですか?
そうなんです。
男も私に気が付き、それと同時にウエストポーチのチャックを開け、
素早くポーチの中に右手を入れました。
拳銃を抜こうとしていた?
![拳銃vs空手](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012713.jpg)
そうです!
というかすでに銃を握っているのが見えました。
明らかに危機的な状況です。
その時点で、男と私は手が届きそうな距離、
そのまま突っ込むしか選択肢はありません。
走った勢いのまま、両手で銃を押さえに行った結果、
思いっきり体当たりをくらわす形になりました。
よい判断でしたね。
逃げたら背中を撃たれていたと思います。
そのあと取っ組み合いになり、
相手は両手を使って、引き金を引こうと必死でした。
この場合は何よりも、銃を使えなくすることが最優先です。
しかし現実は、手首を極めてとか、当て身をくらわした隙にどうこうなど、
映画のようにはいきません。
どう決着がついたのですか?
![今も残る傷跡](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012714.jpg)
まず銃を奪おうとしましたが、相手も死にもの狂いなので、
一度つかんだ道具を、簡単には放しません。
それどころか私に向かって発砲しようと、
必死の形相で睨んでいます。
しかしそんな密着状態で、引き金を引かせるわけには絶対いきませんからね。
相手の獲物は、装弾数5発のリボルバーでしたので、
左手の四指と手の平でシリンダーを覆い、さらに撃鉄が上がらないよう、親指で押さえて、銃が撃てない状態にしました。
その間になんども、左手親指の付け根を噛み付かれたので、
今でも歯形が残っていますよ。
生々しい話ですね。
それで決着までどれくらい時間がかかったんですか?
![対拳銃・・・恐怖との闘い](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/2021012715.jpg)
実際には2~3分くらいだったかもしれません。
しかし体感的には恐ろしく長い時間、
そうですね・・・10分ほど格闘したような感じです。
とにかく気を抜いたら殺されるので、
根気と体力勝負になりましたが、
力づくで何とか拳銃をむしりとりました。
奪うと同時に弾を抜き、
抜いた弾をスーツのポケットに入れ、
拳銃を数メートル脇に放り投げたんです。
そのまま取り押さえたわけですか?
いいえ。
あらためて対峙すると、
犯人がファイティングポーズをとったので、
疲れを感じる間もなく、犯人に向かい前蹴りと、
続けて顔面に正拳を叩き込みました。
![加藤 一統](https://bhsc.or.jp/wp-content/uploads/2020/06/kato03.jpg)
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
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