【ボディガードと実際】身辺警護の体験談|自分から自分を守りたい依頼人【前編】

ブランデーグラスを持つ女性

ボディガード体験談の第5弾です。

過去の体験談はこちら

今回はキャリア15年のⅠというボディガードが、
7年前に経験した変わったご依頼。

身辺警護の仕事としては、かなり異質な内容です。

せっかくインタビューしましたが、
いわゆるボディガードのイメージからは、かけ離れているで、
ボツにしようか悩んだ本記事。

しかし現在の警備業が、
どれほど幅広いご依頼に対応しているか。

その事実を語るうえでは、むしろ好事例なのでは?
ということで、ご紹介する事にしました。

民間の身辺警護の仕事は、暴力からご依頼人を守るだけではありません。

しかし、こういった本来の身辺警護からかけ離れた依頼は、
日本独特かもしれません。

※個人上保護の観点から、アレンジを加えていますが、内容は全て事実です。

身辺警護の体験談|自分から自分を守りたい依頼人【前編】

元自衛官のボディガードI氏

では自己紹介をお願いします

Ⅰと申します。
現在39歳です。

24歳の時に自衛官から転職しました。
警護歴は15年になります。

身辺警備業界は元自衛官の方が多いですね

警備業全体でいうと元警察関係者が多いですが、
4号業務、いわゆる身辺警備に関しては、
自衛隊上がりの方が多いかもしれませんね。

では今回は、Ⅰさんが経験した中で、
とくに印象深かったお仕事を聞かせてください。

いまから7年前なので、警護歴8年目のときの事です。

ご依頼人は、東京郊外の某市にお住いのサラリーマンの方でした。
簡単に内容をいうと「妻を見張っていてほしい」と。

奥さんの監視・・・浮気調査ですか?

仕事の内容は奥さんの監視?

いいえ、こっそり見張るわけではありません。

ご自宅にお邪魔して、奥さんが外部と接触できないように、
家に閉じ込めておくんです。

えっ!大丈夫ですか?
コンプラどころか法的にアウトな匂いがしますが・・・

そう思いますよね(笑)
わたしも最初そう思いました。

しかし監視は、奥さんの命を守るためでして・・・
つまり奥さんも同意しています。

詳しく教えてください

この奥さんは重度のアルコール依存症です。
ご本人にも、病気を治したい気持ちはあるのですが、
自分の意志では、どうにも止められないんですね。

常にだれかが、酒を飲まないように監視している他ないんです。

しかしご主人は日中お勤めに出ているので、見ていることは出来ません。
つまり奥さんの飲酒を止める人が誰もいないと。

病院でなければ根本的な解決は無理な気がしますが・・・

依頼人の敵は酒

はい、もちろん病院には相談しています。
というよりも、それまでに何度も入退院を経験したそうです。

旦那さんのお話しでは、入院期間はせいぜい3カ月程度で、
それを過ぎると、完治していないのに退院させられるそうです。

結局、何度入院しても症状は改善せず、
退院しては飲み始める、の繰り返しだったようですね。

詳細は失念しましたが、
完治はむずかしいほどの重症と聞きました。

ハッキリ言って、私がそれまでにイメージしていたアル中など序の口です。
この件を通じて、依存症の怖ろしさを痛感しました。

ボディガードの依頼としては相当変わってますね

ストーカーや襲撃者からのガードだけが仕事ではありません。
精神疾患の患者さん関係のご依頼も、しばしばいただきます。
しかし依存症のかたの監視は、その後も経験がないです。

イメージしやすいように、奥さんがどんな人だったか教えてください

まさか!この人がアル中?

年齢は40歳くらいだったと思います。
身長は155㎝くらい、おだやかで品のある方です。
知らない人が見たら、
そんな病気を抱えているとは想像もできないでしょうね。

ただし眼窩のくぼみと、恐ろしくやせ細った体からは、
独特の雰囲気が漂っていました。
多分体重は40キロも無かったんじゃないかな?

痛々しいですね・・・

部屋に元気だったころの写真が飾られていたんですが、
別人にしか見えません。

最初はそのギャップに衝撃をうけました。
しゃべる声が、とにかくか細いんです。
初日にご挨拶した時も、何と言ったか聞き取れませんでした。

ご主人が私のことを紹介しましたが、
ただ興味がなさそうに、うつろな目で私を見ていたのが印象的です。

悲しいですね、Ⅰさんイケメンなのに
では具体的なお仕事の内容を聞かせててください

服務内容

はい。お住まいは4階建てのマンションの4階です。
警備時間は、朝ご主人が玄関を出てから夕方帰宅するまでの10時間。
具体的には平日の8時から18時だったと思います。

基本的に私はご主人の書斎に待機し、
奥さんは居間か寝室で過ごしていました。

赤の他人の私が常に目の前にいては、
一切気が抜けませんからね。

それがストレスで、病状が悪化したら元も子もありませんし。

部屋の見取り図

日々のわたしの仕事は、

  • 奥さんの外出の防止
  • 1日1回の買い物の同行
  • 訪問者の対応
  • 奥さんの様子をチェック(自傷行為の防止)

おもに、この4つです。

しかしサラリーマン家庭に日々の警護代は負担でしょう。

安くはない警護料

この旦那さんは、某上場企業にお勤めでしたので、
比較的余裕はあったと思います。

とはいっても、1日あたり3万円以上は掛かってと思うので、
月に60万円以上の警護料は発生していたはずです。

個人にとって大きな負担ですよね。

中から開かないように外カギを設けるとか、
ほかに安上がりな方法がありそうですが。

外カギは付いてました。
しかし中に閉じ込めただけでは意味がないんです。

じつは部屋から出られないように、
外カギをして会社に行っていた時期があったそうです。
玄関が開かなければ、
仮に通販で酒を注文しても、受け取る事が出来ませんから。

なのにです。
ご主人が帰宅すると、
明らかに飲んだ形跡があるそうなんですよ。
つまり酒を手に入れるルートがあるんでしょうね。

そのときは入手方法を確かめるために、
会社を休んで外から監視したと言っていました。

どうやって手に入れていたんですか?

酒のためなら・・・

酒屋さんをベランダの下に呼び出すんです。
お金を入れたカゴを紐で降ろして、
そのカゴに酒を入れさせて引っ張り上げていたそうです。

結局のところ目を離すと何としても酒を手に入れるので、
常に誰かが見ているしかないわけで・・・

恐ろしい病気ですね。
性格的に豹変したりとかはなかったんですか?

何度もありました。
さきほども言いましたが、普段は温厚で上品な方なんです。

しかし3・4日に一回ほど
「外に出せ!」とわたしに詰め寄り大暴れすることがありました。
暴れると言っても、小柄な女性なので、大した暴力ではありません。
ただし罵詈雑言はすさまじかったですが・・・

ご主人いわく、このような豹変は毎晩だったようです。

他人である私にはギリギリまで耐えていたんでしょうね。
ついに耐えきれないときに爆発したのだとおもいます。

相当苦しかったでしょう・・・
そう考えると、本当に不憫になります。

依頼期間はどれくらいだったんですか?

当初は不定期で、良い治療先が見つかるまでという話でした。
結局見つかったのは、約3カ月後です。

けっこう長期ですね

余命6ヶ月

じつはアルコールのせいで摂食障害を引き起こしており、
余命宣告もされていたそうです。
ただちに適正な治療をしないと、半年もたないだろうと・・・

しかもアルコールの摂取自体が死につながりかねないので、
一滴も飲んではいけないと、医者から言われたと聞きました。

本当に命がかかっていたんです。

大袈裟ではなく、奥さんにとって酒は毒と同じなわけですね。

その通りです。
それにですね、
かりに酒を飲んでもすぐに吐いてしまうんですよ。

凄まじい飲酒の欲求とは裏腹に、
身体がボロボロで、アルコールを受け付ける体力もありませんでした。

飲めば吐いて苦しむと分かっている。
それでも飲みたいという・・・まるで地獄です。

あと過去に何度か自傷行為もしていたので、
その点にも警戒が必要でした。

自殺願望があったのですか?

常に「死にたい」と思っている訳ではありません。
しかし感情の起伏がはげしいので、
何かの拍子に、手首に刃物を当ててしまうんでしょう。

もちろん、そのタイミングは誰にも分かりません。

Ⅰさんの待機場所は別の部屋ですよね。
どう警戒したんですか?

死にたい依頼人を守れるのか?

私の存在がストレスにならないように、
出来る限り顔を見せないようにしていました。
それが契約条件でもあったからです。

しかしそうすると、奥さんの様子は確認しずらくなります。
基本的には音や気配で異変を察知するしかありません。

うーん・・・もう少し現実的な答えを期待していたのですが・・・

すみません(笑)
気を抜かないのは前提ですが、それは運まかせと同じですからね。

じつは居間のドアがガラス張りだったのが幸いでした。
30~60分に1回のペースで、そこからこっそりと確認したんです。

ただし寝室に入られると目視できません。
朝の表情や雰囲気から、その日の心理状態を推測していました。

寝室に閉じこもったからと言って、自傷行為に及ぶとは限りませんからね

そうなんです。
しかも寝室を頻繁にノックされたら、だれでも嫌ですよね?
そうも言ってられないときは、
無理やり用事をつくってノックしてましたが・・・
結局のところ「勘」に頼らざるを得ない場面も少なくありませんでした。

幸い警護期間中に、奥さんが自傷行為をすることはありませんでしたが・・・

しかし依頼人にストレスをあたえずに、
監視性を高めるのは、むずかしい課題です。

一日中部屋で待機されることが多かったんですか

徐々に縮まる心の距離

はい。
あと毎日の買い物が奥さんの日課だったので、その同行です。
いつも一時間くらいかけて、近所のショッピングモールまで徒歩で行きました。

並んで歩いても、最初はほとんど会話がありません。
しかし毎日一緒に買い物に行くと、少しづつ人間関係がつくられます。

他愛もないことを話しかけたり、荷物を持ってあげたりしているうちに、
だんだん打ち解けてくれるようになりました。

このようなご依頼だと、とくに心の距離感が大事ですからね

2週間ほどすると、
お酒をやめたいけど自分の意志ではどうにもできない辛さなど、
自分の気持ちを語ってくれるようになったんです。

最初にくらべると、だいぶリラックスして見えました。

では問題はおきなかったんですか?

いえ、残念ながら大きな問題が起きたんです。
開始から3週間目の事だったと思います。

その日は土曜で、わたしは休みでした。
昼過ぎに旦那さんから私の携帯に直接電話があったんです。

「妻が酒を飲んで吐いている」と。

あの家に酒は置いてありません。
あるとすれば、奥さんが私の目を盗んで買ったとしか考えられないと、
旦那さんは興奮気味に言うのです。

Ⅰさんが彼女の行動を見落としたと?

酒はどこから湧いた?

そのときはわかりませんでした。
しかし買い物の時は、私の目の前で会計もしています。
隙を見て買ったとは考えられません。

万引きも疑いましたが、
そもそも酒類をあつかう売り場は、立ち止まってもいなかったんです。
ちなみに料理酒やみりんも、いっさい買いませんでした。

どこで手に入れたんでしょうか?

電話では何も判断できないので、
とりあえず、お宅へむかいました。
旦那さんもかなり興奮していたので。

1時間後にお邪魔すると、旦那さんが沈んだ表情で招き入れてくれました。

急いで休日出勤されたんですね?

「奥さんは大丈夫ですか?」と聞くと、
吐き疲れて寝室で横になっているとのこと。
幸い病院に行くほどではなかったそうです。

しかし居間ではなく書斎に通されました。
奥さんの隣の部屋では、話したくないのでしょう。

書斎に入ると「申し訳ない!」とご主人が頭をさげました。

「酒は買ったものではなく、たぶん家にあったのだと思う」
と言うのです。

家に酒は無いと言ってましたが?

まるでマルサの女!ここまでして酒を隠す

旦那さんの話では、
半年ほど前にも、目を離したすきに飲んでいたそうなんです。
もちろん家に酒はありません。
「どこかに酒を隠しているに違いない」と疑い、
家中を徹底的に捜索したらしいです。

くまなく探した結果、
見つけたのは、ウィスキーやワンカップなど計3~4本。
中にはくりぬいた壁にフタを作ったり、
まるで映画さながらの隠し場所もあったというから驚きです。

そこまでされると素人では探しようがありません

そうなんです。
ご主人的には、あれだけ徹底的に探したのだから、
他には無いと確信していたそうです。

でも見落としがあるのでは・・・と?

探しの物のプロとは?

はい。
しかしあれ以上は、自分で見つけ出す自信がない。
なので盗聴発見業者に家探しをしてもらえないか?
と、相談されました。

ご主人が言うには、
「隠れたものを探す、一番のプロはマルサか盗聴発見屋」ということらしいです。

酒と盗聴器では全然違いますが・・・

そうなんですよ。
盗聴器と違い、酒は電波を出していないので、
目で見て探すしかありません。

これは想像よりも大変な作業です!

《後編に続く》

加藤 一統

ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
ボディガードと探偵の依頼先をお探しの方に、条件やご要望に合う優良な警備・探偵会社を無料でご紹介。
長い業界歴を生かし「読みやすく価値ある」記事を提供いたします。

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