【ボディガードと実際】身辺警護の体験談|自分から自分を守りたい依頼人【後編】

ブランデーグラスを見つめる女性

キャリア15年のボディガード、Ⅰ氏が語る7年前の経験。
今回は、とても変わった身辺警護依頼のお話し後編です。

重度のアルコール依存症のため、
酒を口にすると、命を落とす恐れすらある依頼人。

依頼人自身の衝動から依頼人を守るという、
非常に珍しく、
しかも一瞬の油断も許されない過酷な現場。

民間の身辺警護の仕事は、暴力から身を守る事とは限りません。
スターや著名人の警護は、ほんの一側面に過ぎないのです。

※個人上保護の観点からアレンジを加えていますが、内容は全て事実です。

身辺警護の体験談|自分から自分を守りたい依頼人【後編】

前編はこちら

お酒の発見は盗聴発見業者の仕事ではありませんよね?

そうなんですよ。
盗聴器と違い、酒は電波を出していないので、
勘を頼りに、目で見て探すしかありません。

これは想像よりも、はるかに大変な作業です!
残念ですが、盗聴発見業者では酒を見つけることは難しいだろうと伝えました。

しかしご主人も、ワラにもすがる思いなのでしょう。
それでも構わないと、全然ゆずらないのです。
少なくとも、素人の自分が探すよりは見つかる可能性が高いと。

まるで家宅捜索

気持ちは分かります。しかしタダではありませんからね。

その点もクドく説明したんです。
しかしご主人の気持ちは変わりませんでした。

出来ることは全てやっておきたかったのだと思います。
専門の業者を教えてくれというので、知り合いの調査会社に連絡を取りました。

二つ返事でしたか?

いいえ。
結果に自信が持てないということで、最初は断られました。

しかし、

「結果的に酒が見つからず、後日になって隠した酒が出てきても一切文句を言わない」
という条件ならば、

という事で引き受けてもらいました。

これは当然だと思います。

その3日後、朝9時から夜7時までの10時間、
2人の調査員が家中の捜索を行いました。
引越しさながらに、すべての家具を移動させての大がかりな作業です。

奥さんも立ち会ったんですか?

本来は、隠した本人の顔色を見ながら探すのが効率的です。
しかしそれをすると、この奥さんの場合は精神的に追い詰めかねません。


なので作業中は別室でくつろいでもらいました。

なるほど、結局お酒は見つかったんですか?

壁に埋め込まれた酒を発見

ええ、合計3本見つかりました。
それも普通の隠し方ではなかったです。


トイレの棚の奥にくりぬかれたスペースが作られていたり、
ソファーの足の筒が広げられて、細い瓶が入るように加工されていたりと、
本当に映画の「マルサの女」みたいでした。

すべて奥さんが自分で作ったんですか?

恐らくそうだと思いますよ。
手伝う人などいませんから。

よくよく見ると雑ではありましたが、
どれもパッと見では絶対に分からないレベルでした。
酒を隠したい執念で、ここまでやるのかと、本当におどろきましたね。

賃貸か分譲か知りませんが、
マンションの壁に穴まで開けるとは・・・

最後に、見つけた酒を前にして、旦那さんが奥さんを問い詰めたんです。
「他には隠していないのか?」と。

しかし奥さんの反応が妙なんですよ。

妙というと?

本人もおぼえていない?お酒をどこにかくしたっけ・・・

これ以上は無いと否定していましたが、反応からするとまだ有りそうです。
しかし奥さん自身も何かピンときてないというか・・・表現が難しいですね。

つまり私が思ったのは、
本人も酒の隠し場所を忘れているのでは?
ということです。

帰り際に調査員も同じ事をいってました。
「もしかしたら本人も忘れている隠し場所があるかも」と。

実際その予感は的中しますが、分かるのはずっと後です。

いつ分かったんですか?

外はサンポール中身はウイスキー

2カ月後、奥さんが専門施設に入院した後です。

この仕事が契約終了になったあと、
一度だけ旦那さんから電話をいただきました。
トイレを掃除しようとサンポールを便器にかけたら、出てきた液体がサラサラの琥珀色だったと・・・

ウィスキーですか?

はい、奥さんが中身を入れ替えていたんです。

入れ替えた本人は覚えていないんですか?

いつだったか隠した酒について、
本人にそれとなく聞いたことがありました。

やはり隠したことすら忘れているそうです。
しかしテレビを見てる時やシャワーを浴びてる時など、
何かの拍子に思い出すと言ってました。


多分隠している時は、精神状態も普段と違うのだと思います。

その後はとくに問題なかったんですか?

再度119番通報しかも飲んだのは酒どころか・・・

いいえ。
その2~3週間後に、また同じことが起こりました。


ご主人の在宅中に奥さんがアルコールを飲み、
しかも今度は救急車で運ばれてしまったんです。

隠してあった酒ですか?

最初は私もそう思いました。
しかし違ったんです。


その日もいつもの通り、夕方に旦那さんが帰宅したタイミングで下番(服務修了)しました。
夜自宅でくつろいでいたら、ご主人から電話があったんです。

前回と違い、語気は落ち着いていましたが、内容はショッキングでした。

「妻がアルコールの過剰摂取で救急搬送されました」と。


わたしも病院に向かうと伝えましたが、
そこまでしなくても大丈夫ですとの返事。

ただ「明日もいつも通り出勤してください。」とだけ言われました。
どうやら深刻な話があるようです。


翌日奥さんはまだ病院でしたが、
旦那さんの話を聞くために、いつも通り現場に向かいました。

結局どこから酒を調達したんですか?

消毒用のアルコールを飲む

飲んだのは酒ではありません、まな板用の消毒液です。

前日買い物で、2本セットの詰め替えパックを買っていたんです。
そんなに要らないだろうとは思いましたが、
とくに疑問に思わなかったんです。
これは不覚でした。

ご主人の話では、その日の夜ご主人がシャワーから上がると、
居間で奥さんが激しく嘔吐しており、
その横には除菌剤の空き容器が転がっていたそうです。

「まさか飲むために、消毒アルコールを買うとは想像できない。
これは仕方がありません」と、
ご主人は私を責めることはありませんでした。

しかし私的には、とても責任を感じています。

そんなものを口にするとは・・・
たしかに想像できませんね

依存症の恐ろしさを垣間みた気がします

味的にも、飲めたものではないと思います。

先ほども言ったように、
奥さんように、症状の重い患者さんの場合、
アルコール摂取そのものが、死に直結しかねません。


つまり、早期の入院はもちろん、
アルコールを一滴も口にさせない事が重要だったんです。

その後はどうなりましたか?

ついに受け入れ病院が見つかる

奥さんの入院中の2日間は、私も休ませていただき、
退院と同時に、警護も再開されました。

それから数週間後に、地方の専門病院の受け入れがきまり、
実際に入院されたのは、それから1カ月後です。
その間はとくに問題は起きませんでした。

完全に契約終了ですね
その後、奥さんは元気になられたのでしょうか?

それは、わかりません。
一切確認していませんので・・・

理由があるのですか?

契約が解除になったお客さんに、こちらから連絡しないのは、
身辺警護のマナーだと思っています。

ただいずれにしても、この依頼人はとくに連絡がしにくいですね。
元気であれば良いのですが、そうでない場合は何と言っていいか分かりませんし・・・
はっきり言って、元気になった姿が想像が出来ないんですよ。

そのぶん今でも気になるお客さんの一人です。

そもそも奥さんがアルコール依存症になった原因は何だったんですか?

アルコールに依存した理由

まったく知りません。
聞くに聞けませんしね。

あくまで推測ですが、ご主人との関係が原因じゃないかなと・・・
少なくとも要員の一つではあったと思います。

最初にも言いましたが、
ご依頼人宅の居間に、元気だったころの奥さんの写真が飾られていたんです。

その写真の笑顔からは、
おとなしくて優しい性格が伝わってきました。

依存症になって外見は別人のようになっても、
やはり人間性の良さは、ところどころに出るんですよね。

おそらく、家で旦那さんの帰りを健気に待つ人だったのだと思うんです。

しかし旦那はバリバリのビジネスマン。
仕事や付き合いが忙しくて帰りは毎日夜おそく。
奥さんを顧みる余裕もない。
子供もいない奥さんは、ひとりで寂しさを紛らわすために酒を・・・
というのは私の勝手な推測ですけど(苦笑)

いずれにしても、私には典型的なキッチンドリンカーに見えました。

つまりご主人にも責任があると?

責任は誰にある?

もちろん責任がゼロではないでしょうね。

しかし昨今、ジェンダーレスだの言われていますが、
いまだに仕事を理由に家庭を顧みず、反省もしない亭主は大勢いますし、
それが現実です。

ちなみにご主人は、奥さんとおなじくらいの歳だったので、
おそらく当時40歳前後。
まだまだ付き合いや、誘惑も多かったはずです。
しかし仕事の時以外は、奥さんに付きっきりでした。

当たり前と言われると、返す言葉ありませんが、
その当たり前が出来ない男が多いのも事実です。

きっと自責の念もあったのだと思いますが、
奥さんに寄り添うあの姿勢は、本当に立派だと思います。

旦那さんが原因かは分かりませんよね?

あぁ・・・すみません。
くどいようですが、あくまで推測です。

しかし奥さんの難病に、
一緒に向き合う姿は今でも忘れられません。

では最後に一言おねがいします。

総括

多くの人が想像するボディガードとは、
依頼人に襲いかかる敵とたたかう仕事ではないかと思います。

しかしアクション映画さながらの現場というのはむしろ稀で、
正直現実はカッコのいいものではありません。
今回お話したような、
普通の人が日常の中で抱える悩み・・・
しかもかなり深刻な悩みのお手伝いが多いんです。

皆さん安くはない料金をはらい、警備業者に助けを求めてきます。
決して儲かる仕事ではありませんが、
自分の行動の意義を、ハッキリと実感できる仕事なんです。

いつも思うのですが、自分の仕事に誇りを持てるという点は幸せですよね。

いかがでしたか。
過去に紹介したボディガード体験談は、
銃と対峙したり、刃物の暴漢を取り押さえたりと、
まさにボディガードのイメージを象徴した内容だったと思います。

しかし今回は、
飲酒や自傷行為から本人を守るという、
一見ボディガードの仕事とは無縁な体験を紹介しました。

しかし身辺警護のご依頼には、
ごく普通の方々の、リアルなお困りごとも多く、
それにともない、実際に対応をする警備会社も増えてきました。

昨今ではボディガードというよりも、
エスコートのようなご依頼も珍しくはありません。

認知度や規模で比べると、
まだまだ欧米には及ばない日本のボディガード市場。
しかし対応するご依頼内容の幅広さは、もしかしたら日本のほうが上かもしれません。

加藤 一統

ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
ボディガードと探偵の依頼先をお探しの方に、条件やご要望に合う優良な警備・探偵会社を無料でご紹介。
長い業界歴を生かし「読みやすく価値ある」記事を提供いたします。

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