【ボディガードの仕事】警護員向け警棒術①|特殊警棒の使い方とタブー!動画あり

この記事の著者:一般社団法人 暴犯被害相談センター
代表理事 加藤一統 (ボディガード歴25年)

 画像:Taka Defense Design より

もしも練習をしていない人が手にしたばあい、警棒ほど使えない護身用品はありません。
身を守るどころか、相手に奪われ自分を襲う凶器になる可能性すらあります。

一概に警備員といっても、ひとり一人の格闘スキルには差があります。
そのような場合、催涙スプレーのほうが装備には最適です。
催涙・防犯スプレーの効果的な使い方&オススメ3種|動画あり

しかし警備業法上で認められている護身用品は、実質的に警棒のみ。
そして警棒の稽古は、顧客のためだけでなく自分の身のためとも言えます。

警棒はしっかり修練さえ積めば、打つ事はもちろん、絞めや関節技のほか、飛び道具のように投げるなど、マルチに使うことも可能です。

しかし一般私人が携帯した場合、職質を受ければ間違いなく連行されます
警官などの公人以外で、警棒の携帯が認められるのは警備員だけです。
(警備員も服務中以外の携行は認められていません)

今回の警棒の使用方法と心構えは、日ごろ合法的に警棒を携行している、警備員に向けています。
その他の方は対象外ですのでご容赦ください。

特に2-1 実際警棒を使うとこうなる2-4【結論】結局警棒は使っていいの?は重要なので、現在警棒をお持ちの方、これから手にする方は必ずお読みください。

1.警棒の使い方とタブー

警備員が携帯を認められている護身用品は警棒のみです。
スタンガンや催涙スプレーなどは一切認められていません

ただし警棒であれば、何でも携帯してよいわけではなく、「長さ・重量・公安委員会への届出」などの条件はあります。(警備業法第17条第1項による)

1-1 警棒のメリットとデメリット

天秤

警備員にとって唯一の守り刀ともいえる警棒ですが、使いこなせる人はボディガードの中でも多くはありません。(皆さん格闘技の修練には熱心ですが、警棒術への関心が強い方は意外と少ないのです)

警棒は、奪われると自分への脅威になりますが、使いこなせれば強い味方になります。

また冒頭で触れたたように「打つ・絞める・投げる」など多様な使い方が可能です。
警棒は格闘技の延長と考えるべきなので、武術の下地がある方は、無い方に比べてはるかに習得時間が短く済みます。

逆にまったく格闘技や武術の経験のない方には、かなりのハードルと言えるでしょう。

また警棒による攻撃は「殴打」が多くなりますが、「肩・上腕・太も」など肉の厚い部分を打っても、効果は期待できません。
しかし「額・前腕・スネ」など、骨に近く効果的な部位は、骨折など重症を負わせる可能性が高いというジレンマもあるのです。

それらをクリアした護身用品が防犯スプレー(催涙スプレー)ですが、残念ながら警備業法上、携行が認められていません。

ただし催涙スプレーは、周囲にいる第三者も被害を受けるおそれがあり、人が多い場所や密室での使用は、法的な責任を問われる可能性があります。

警棒も周りの人に当たる可能性がゼロではありませんが、基本的に第三者を巻き込む恐れはありません。

1-2 警棒術は格闘技の延長

道着

警棒は打撃以外に「関節技・絞め技」も可能です。

しかし難易度が高く、実践できるレベルに達するには、修練にプラスして、柔道や合気道などの下地が必要になります。

例えば総合格闘技などの素養があれば、むしろ素手以上にかけやすい技も多いので有効に使えます。

ただし、例えば刃物を制圧するためには、尋常でない技量を必要としますが、実際に携帯する方々は格闘技経験の無い方も多く、使い方として「叩く」用途が自ずと多くなります。

これは相手にも自分にとっても危険です。

はっきり言って、警棒を一定のレベルで使いこなすには、武術の心得が必須であり、無ければ持たないか、格闘技を身に付けてから持つべきです。

さもないと、身を護るどころか滅ぼす可能性もあります。

ただしそれなりの武術経験をお持ちであれば、習得までにそう時間はかかりません。

1-3 警棒のテクニック一例

警棒集合

「打つ・突く・関節・絞め」いずれの場合も、警棒を使えばリーチが伸びます。

下の動画は15年ほど前に撮影したものです。
今見ると稚拙な点もありますが、参考になります。

警棒による打撃は、太ももや二の腕など、柔らかい場所では効果が薄いため、狙うポイントは腕であれば手首、脚なら膝かスネ、体なら鎖骨です。

また剣道と剣術は、警棒術の習得にかなり役に立ちます。
警棒に刃はついていませんが、刃筋イメージすると芯がぶれず、次の動きに繋げやすくなります。
ただし刃筋にとらわれ過ぎると技が制限されます。
警棒の断面は刀と違い円です。打つ(当てる)角度を一つに絞る必要はありません。
側面(刀だと鎬の部分)での攻撃も有効です。


警棒の基本については別記事でも解説しています。
警棒術公開③|小手の打ち方と練習方法|動画あり

ただし当然ですが、相手の骨は折れて出血し、頭や肘膝など関節の場合は後遺症が残る危険もあります。

つまり警棒を抜くことは一大事であり、相当な理由がないかぎり認められません。

そもそも正当防衛緊急避難は要件のハードルが高く、人命を守るためとはいえ過剰防衛に問われる可能性は高いのです

2.警棒を使う上での注意事項

警棒は金属棒なので相当の破壊力があります。つまり相手に重傷を負わせる可能性が高い護身用品です。
したがって使用が許される場面はかなり限定されます。

2-1 実際警棒を使うとこうなる

刑事

殺意を持って刃物を手にする者を前にすると、その圧迫感によりほとんどの方は冷静さを保てません。
練習とは全くちがう恐怖と絶望感に襲われます。

「こうきたらこう返す」というような、技術的な問題ではないのです。

一種のパニック状態なので、闇雲に警棒を振り回す事になりますが、闇雲な動きの中に練習した動きがほんの何割か含まれます。
そのような緊張状態では繊細で高度な技ではなく、単純な振り回しができるかが命の分かれ目になります。

また警棒を持って応戦する相手は、刃物・鈍器の他、場合によっては銃器も想定されます。

実際に暴力の現場では、「怪我をさせないように」と相手を思いやることも、「これ以上やると過剰防衛になるからやめよう」と先の事を考える余裕はありません。

詳しくは別記事で解説しています
警棒術公開②|実戦的な技=使ってはいけない技|動画あり

相手に相応のダメージを負わせる事は、避けられないと考えるべきです。

よって警棒を使うべき状況は、下の2つのみと考えましょう。

  • 相手が刃物・鈍器・拳銃など殺傷力の強い武器を「明らかに」携帯している場合。
  • 応戦しなければ、死者・重傷者がでると思われる場合。

これらケースは客観的に、やむを得ないと思われます。
しかし確実ではありません。それほど正当防衛はハードルが高いのです。
つまりそれ以外の場合は、高確率で暴行罪に問われると忘れないでください。

2-2 警棒携帯|プロとしての心構え

空手を練習する子供達

どんなに危険慣れした人でも突然の襲撃に際しては、ほんの一瞬ですが身体が固まります。(周りは気付かないほどの一瞬ですが)
これは人間の条件反射なので、ゼロには出来ないと思います。

ただし経験を積んだ人間はコンマ単位で気持ちの立て直しが可能であり、逆に素人は秒単位で固まることも珍しくありません

この差は慣れの問題もありますが、「襲われたら即応戦」という反射運動が意識下に刷り込まれているためです。

つまり「襲われた→武器を手にする」の流れを、意識に刷り込むことが大事で、それが無い限り、反射的に武器に手が伸びることはありません。(イザという時に頭では考えられません)

結局は反復練習です。しつこくイメージトレーニングを行う以外に方法は無く、そうしない限り警棒に手は伸びないものです。

2-3 警棒との付き合い方(護身の本音と建前)

警察署

ダメージを与えすぎない様に、骨ではなく筋肉を叩くよう指示した教本を拝見した事がありますが、実戦では全く効きません
おそらく書いたご本人も承知の上だと思いますが、建て前を言わざるを得なかったのでしょう。

実戦では襲われる側だけでなく、襲う人間もアドレナリンが大量分泌されています。
率直に言って、相手をいたわった攻撃は一切効かず、骨を叩き折ってもその場では効かない事すらあります

つまり手加減する余裕は一切ありません。

逆言うと、直前まで自分に襲い掛かっていた相手が、アドレナリンが抜けることで身体がダメージに気付き、いきなり意識不明におちいるケースも珍しくありません。

この現象は、格闘技の試合などで見られることがありますが、暴力犯罪の現場では高確率で起こります。

いずれにせよ警棒で相手を制圧するという事は、それなりのダメージを与える覚悟が必要であり、しかもそのダメージは、法的責任という形で自分に返ってきます

2-4【結論】結局警棒は使っていいの?

うつむく容疑者

警棒の使い方と、使うと罪に問われる可能性、両方の話をしてきました。

それで結局、警棒は「使っていいの?悪いの?どっちなんだ?」と釈然としませんよね?

最終判断は警棒を手にした本人が決めるしかありません。
各自が一瞬で判断する以外にないのです。

しかもその判断が間違っていても、全ては自己責任です。
会社も責任を問われますが、あなたを守れる保証はありません。

結論として最良の方法は、抵抗・無抵抗どちらも選ばずに、全力で現場から離脱する(走って逃げる)事です。
1~3号警備に従事中の方は、安全な場所に避難してから悠々と110番してください。

ただしボディガードの場合はクライアントを置き去りにして逃げるわけにはいきません

仕事を全うするため警棒を託されて、相手に怪我を負わせた場合は傷害罪に問われ、逆に手加減をすれば自分の身が危うくなる。

それが身辺警備の仕事ですので、常日頃のシュミレーションが重要になります。

加藤 一統

ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
ボディガードと探偵の依頼先をお探しの方に、条件やご要望に合う優良な警備・探偵会社を無料でご紹介。
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