【ボディガードの体験談】エピソード2|新米身辺警護員:前編
前回好評だったはじめてのボディガードの、現場デビューの体験談です。
今回のお話は、現場経験18年、都内の警備会社にお勤めのM氏に伺いました。
個人情報への配慮から、内容に若干アレンジを加えていますが、基本的に実話です。
新米身辺警護【前編】
まずは自己紹介をお願いします。
27歳の時に都内のボディガード会社に入社して、今年で18年目になります。現在45歳です。
その前は飲食の関係でした。いずれ自分の店を持ちたいという、漠然とした夢はありましたが、あるとき雑誌で、
某身辺警備会社の社長のインタビューを読んだんです。
最初は「こんな世界が現実にあるのか・・・」とおどろく程度でしたが、日が経つにつれて頭から離れなくなり
「今を逃したら一生この世界には入れないのでは?」と思いつめまして、ダメ元で面接に行ったら合格した、という経緯です。
前回のKさんは、営業マンからの転職でしたが、一般的な職業から転職される方も意外と多いですね。
元警官や自衛官、たまに元外人部隊なんていうのもいますけど、多分半分以上は普通の民間人だと思います。
私の場合、長く格闘技(空手)やっていた事も志望の動機になりましたね。
建前としては、自分の腕を「世の役に立てたい」
本音は「腕を試したい」のみたいな・・・
実際になってみると格闘技は二の次でしたけど。
前回のKさんも同じような事をおっしゃっていました。
ところで本当に元外人部隊もいるんですか?
はい、いますよ。
ちょっと問題があるので、詳しくは言えませんが、私が知っているだけで2人います。
では本題の初現場の話をお願いします。
たしか入社から1年近く経った頃です。
それまでは、銀行の守衛・スーパーの保安担当・高級ブティックなどの、
いわゆる施設の制服警備に入っていました。
とにかくボディガードがやりたくて、毎日悶々としていましたが、「会社に認められるまでは・・・」と、制服の勤務を頑張ってました。
前回のKさんは我慢できず、社長さんに直談判しに行ってましたよ。
あぁ・・それは駄目ですね。絶対だめです!
警備の基本は、そこに詰まっています。そこを耐えられない者に身辺警備が務まるわけありません。
しかし当時の私も、制服の1年間を無駄だと思っていたので、人のことは言えません。
具体的にどの点が欠かせませんか?
施設警備というのは、デパート・駅・銀行などの同じ地点に立ち、1日中人間を観察します。
これは案外できない経験です。
そんな中、人の流れを見ていると、違和感のある人間が目に止まるようになるんです。
どんな場所でも、場の空気というか・・・人々の一貫性みたいなものがあるんですけど、たまにその場にそぐわない人物がいるんです。
たぶん普通の人はスルーする程度のわずかな違和感ですが、長時間その場所にいると、浮いている人が目に飛び込んでくるんですよね。
それがいわゆる不審者なのでしょう。
普通は1年間も、人間観察に没頭する機会なんてありませんからね。
今思うとありがたい事です。
とにかくガマンの甲斐あって、はじめて身辺警備の現場に入れることになりましたが、今思うと変わった現場でした。
またですか?Kさんもでしたよ。
多分ケビンコスナーみたいな話を期待したんでしょう?
海外では知りませんが、あんなの現実には聞いたことありませんね。
しかも、デビューでVIPの警護は入れてもらえないです。
ただし、一般のお客様を軽んじているワケではありません。誤解しないでくださいね。
当時は一人きりで派遣される現場が多く、すべての責任は、そこをまかされた人間にかかります。
そのため、法人やセレブなど、料金的に高額で責任の大きいご依頼は、おもにベテランが派遣されていました。
おのずと個人のご依頼は、若いボディガードが入る事になるんです。
つまり軽んじているじゃないですか。
いえ、決してそんなことはありません!
案件の単価で、派遣される人間のキャリアが変わる事はありましたが、最低限のスキルは全員持っていましたので!
失礼しました。で、Mさんの初現場はどなたの警護でしたか?
私はマンションの管理人さんでした。
Mさんがマンションの管理人をなさったのですか?
違います。管理人さんのボディガードをしたんです。
たしか2002年だったと思います。
すでにバブル崩壊からだいぶ経っていましたが、バブル期に建設された高級マンションが建ち並ぶエリアが都内にあったんです。
私が警護した管理人さんは、住民から日常的に恐ろしい目に遭わされていました。
よく分かりませんね・・・どういうことですか?
依頼人は、そのマンションの管理会社で、現場は、「各フロアに1世帯のみ」そして「全戸200㎡以上」の超高級マンションでした。しかし住人が、とにかく問題だらけなんです。
仮に「A億ション」という名前にしましょう。
時系列で説明しますね。
- A億ションの管理会社が破産、競売に出される
- A億ションは大規模開発の予定エリア内に建っていた
- B社がA億ションを競売で落札
- B社は金子さん(仮名)という70歳の管理人を常駐させる
- 2階住人がB社への嫌がらせで、金子さんに暴力・監禁を行う。
- B社より金子さんの勤務中の警護を依頼される。
- 金子さんの勤務は平日の09~17時
- 5世帯中3世帯に入居者がいたが詳細は以下の通り
1階:空室
2階:某暴力団幹部
3階:自称会社経営者の父娘
4階:空室
5階:詳細不明
つまり住人を追い出したい管理会社と、1円でも多くふんだくりたい住人の争いです。
その火の粉が、70歳の管理人さんに降りかかる状態でした。
その管理人さんをMさんが守ると?たしかに変わっていますね。
今は聞かなくなりましたが、当時は似たようなご依頼が数件ありました。
余談ですが、そういうワケあり物件って、住人を見なくても、建物のたたずまいから、ただならぬ雰囲気が漏れ出るんですよね。
多分一般の方でも勘のいい人なら分かると思うので、気がついたら近寄らないようほうがいいです。
話が逸れました。
もともと1階と5階も暴力団員が住んでいたらしいのですが、私が警護に入ったとき、確実な組関係者は2階の住人だけでした。
そしてB社へのプレッシャーと、金子さんへの嫌がらせをしていたのも、おもに2階の住人です。
他の住人は問題なかったのですか?
警戒の必要があるのは2階だけでした。
しかし5階の住人は、とくに不気味でしたね。
深夜に不特定多数の男女が出入りしていたようですが、
結局何者かは分かりませんでした。
いずれにせよ、合法的な活動をしている連中ではなかったと思います。
3階は貿易会社の社長(60代位)と娘さん(30代位)でした。
この人は裏の人間ではないので、会えば普通にあいさつをしてきます。
なので金子さんは気を許してました。
しかしそんなマンションに居座る人間ですからね。言わずもがなです。
監禁と暴力という事でしたが、具体的には?
子供のいじめと同じです。
掃除をしていると後ろから蹴られるとか、
エレベーターで小突き回されるとか、あと管理人室の中に何時間も閉じ込められた事もあったそうです。
しかし70歳のお爺さん相手に許されませんし、金子さんの恐怖とストレスは相当だったと思います。
よくお辞めになりませんでしたね?
後でその話もしますが、個人のご事情もあるので「なぜこんな仕事を続けるのか?」は私からは、きけませんでした。
ただ、いつだったかご本人がボソッと、「年齢的に他に雇ってくれる頃も無いので・・・」みたいな事をおっしゃっていましたけど。
では具体的な警護のお話を聞かせてください。
毎日の勤務は、私が朝9時前に、現場で金子さんの出勤を待つところから始まります。
管理人室はエントランスを入ると正面にあり、中は結構広くて8畳ほどだったと思います。
共用部分の管理と、ゴミ捨て場の掃除のとき以外は管理人室で待機し、横100cm×縦50cmほどの小窓から、建物内に出入りする人物を記録するのが金子さんの仕事でした。
建前上わたしの肩書は「管理人見習い」と言いうことにしましたが、どうみても管理人に見えなかったと思います。
一般的な管理人業務と考えていいですね?
はい。よくありますよね。
小窓のある管理人室の中から、管理人が人の出入りを見ている・・・あの感じです。
金子さんも最初はそんな職場を想像していたのだと思います。
なにか異変は起こりましたか?
私が入った初日に早速おこりました。
午後2時頃だったと思います。
とある住人らしき男が、わたしが管理人室にいる事に気づきました。
例の小窓を叩き「お前ダレだ!?」とケンカ腰にたずねるわけですよ。
正直私が想像していたのは、ゴリゴリの武闘派ヤクザだったのですが、窓を叩いているのは、派手なシャツの小柄なオッサンです。
拍子抜けして金田さんに誰だか訊くと、案の定2階の関係者とのことでした。
その派手シャツの男がうるさいので、取り敢えず管理人室をでて対応しました。
えっ・・・部屋から出たんですか?
えぇ(笑)
若気のいたりというか、素人の怖さというか・・・ともかく相手をなめて真っ向から対応したんです。
まずは派手シャツが、
「ダレだ?テメェコラァ!?」ときたので、「新しい管理人ですが何か?」と返しました。
すると当然むこうは「ナメてんのか!?コラァァ!!」となるので、「舐めてんのはテメェだろうがぁぁ!!」とさらに返すという・・・
アチャー・・・最悪ですね・・・
本当にお恥ずかしい限りです。
いま自分の部下が同じことをしたら、許さないでしょうね(笑)
相手は住人ですよね?つまり一応はお客さんでしょう?
言い訳になりますが、B社の方から「住人は誰一人として家賃を払ってないので、客扱いしないでいいです」と言われていたんです。
その方も口が滑ったすえの、冗談だったと思いますが、愚かにもワタシは言葉のとおりに受けとったんですね。
しかし1円も払わずに高級マンションに住めるんですね?
専門的な事は知りませんが、B社と住人の間に賃貸契約が無いので、強制が難しいみたいな話だったと思います。
ともかく、問題だった2階のヤクザを追っ払ったんですが、金子さんは顔を曇らせて「大丈夫かなぁ・・・大丈夫かなぁ・・・」とボヤいているんです。
私は金子さんの心配をよそに、「私がいるから大丈夫ですよ!」と胸をはっていました。
しかし、金子さんは私の声には応じずに、「大丈夫かなぁ・・・大丈夫かなぁ・・・」と言い続けているので、だんだん私も心配になってきました。
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
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