【護身術と護身用品】危険を70%減らす方法と、はじめに知るべき本当の効果
この記事の著者:一般社団法人 暴犯被害相談センター
代表理事 加藤一統 (ボディガード歴26年)
令和3年10月31日、京王線の車内で、またしても無差別刺傷事件が発生しました。
理由と言えないような身勝手な動機で、面識のない人に平然と刃物をむけた凶行に、多くの人が恐怖を感じたでしょう。
その後も69歳の模倣犯による、新幹線車内での放火など、公共の場で不特定の他人をターゲットにした犯罪が続いています。
このような報道をきっかけに、護身術の必要性を感じた方も少なくないと思います。
好む好まないは別として、異常な犯罪から身を守る方法は、誰にとっても必要です。
しかし実際に、護身術は役に立つのでしょうか?
今回は護身術と護身グッズの現実と限界について解説します。
1.護身術、その前に絶対やるべきこと
結論から言うと、どれほど護身術の稽古を積んでも、身をまもれる保証はありません。
「もしも目の前に、刃物を振り回す通り魔があらわれたら?」最も確実なのは「素早くその場から離れること」です。
しかしその場にいたら、逃げられるとは限らないのが現実です。
被害に遭われた方々も、簡単に逃げられたなら逃げているはずです。
また「逃げることが許されない立場や職業」にいる方も少なくありません。
1-1 護身術と格闘技の違いとは
格闘技の目的は、対戦相手に打ち勝つこと。
たいして護身術は、なるべく無傷でその場から離れることです。
敵から離脱するために攻撃を加えることはありますが、あくまでも手段であり目的ではありません。
格闘技の勝敗は、下記のいずれかで決まります。
- ノックアウト
- ギブアップ
- レフリーストップ
- 判定
対して護身に勝敗はなく、決着は以下で決まります。
- どちらかが動かなくなる
- 取り押さえる
- 第三者の介入
- 逃げる
まず女性や子供など、暴力に抵抗する力がない人に、1と2は無理です。
3は、そもそも周りに人がいるか、110番通報がされている事が前提になります。
これは状況次第なので、運に頼らざるをえません。
したがって、弱者が考えるべき行動は、4の「逃げる」一択です。
「ほとんどの暴漢は、獲物との距離が20m以上離れると襲うのをあきらめる」という説があります。
20mというのは中々の距離ですし、電車の中では無理。
しかし物理的に距離をとることは、安全に直結します。
少しでも安全に、その場から離れることを優先しましょう。
女性やお子さん、老人と障害者の方は、我先に逃げることを考えるべきです。
1-2 護身術(武術)は使えるの?
個人的には、護身目的で護身術を習うことはおすすめしません。
しかし護身術を習うことには賛成です。
矛盾があるので少し説明します。
「護身術」という名称の格闘技はないので、実際に習うのは空手、柔術、合気道、キックボクシングなどでしょう。
道場では体力づくりや基本動作から始まり、徐々にレベルアップしていきます。
空手など、帯に色がつく競技もあるので、努力の成果を実感できるのも喜びの一つです。
近年、子どもの習い事として人気の理由もここにあると思います。
つまり武道にも他の趣味と同じく、人生を豊かにするという、実用性では測れない素晴らしい価値があるのです。
見方を変えると、護身術は武術の目的というよりも「副産物」といえます。
しかし「護身術」を、一つのスキルとしてとらえると、週に1~2回の稽古で実戦に使える技術は身につきません。
それは達人と呼ばれる人の域であり、気の遠くなる年月を稽古に捧げてこそ、なしえる世界になります。
つまり、女性や老人、障害をお持ちの方やお子さんが、護身術で身を守ることは現実的ではないのです。
もちろん男性にも同じことが言えます。
突然武器を持った凶悪犯に襲われた場合、多くの男性は反撃どころか防御もままならないでしょう。
護身術が無駄といっているのでありません。
「とてつもなく難しい」のです。
とはいえ身を守る方法は、力の弱い人にこそ必要といえます。
1-3 危険の70%は回避可能、これこそ最高の護身術
また誰であっても、護身術は使うに至るまでのプロセスがあります。
- いち早く異常に気付く
- 素早くその場から離れる
- 無理な場合は闘う
これが正しい順番であり、3の「闘う」から始まることはありません。
他に方法がない状況で、はじめて護身術を使うべきです。
当然ですが、危険な相手から遠ざかれば、護身術や護身用品は使う必要がなくなります。
早めに危険を察知する力こそ「最高の護身術」なのです。
これさえ出来れば、日常の危険は7割以上さけることができます。
そのために必須である「あやしい人物を見分ける方法」を解説します。
- 声のボリュームがおかしい
- 距離感が近い
- しぐさや挙動がはやい
- まっすぐ一点を見つめている
これは、私が無意識に観察している他人の行動や特徴を、シンプルに分解したものです。
これらの人が必ず危険とはかぎりません。
当てはまるからといって危険人物と決めてかかると、別のトラブルや偏見を生みます。
ここで大事なことは、自分なりの警戒基準を持つことです。
それがないと、いくら周りに目を凝らしても危険を判断できません。
警戒するべき相手を取捨選択する力は、人間観察で養われます。
まずは自分のアンテナを作り、そこに引っかかる人間がいたら動向を観察しましょう。
その結果、危険がなければそれで良いのです。
日々これを繰り返すことで「防犯センサー」が身につきます。
違和感に敏感になると、周りを注意しなくても、不審な人間が自然と目に飛び込むようになります。
まずは自分の中の 「センサー」を育てましょう。
次項では、それでもなお避けられない危険が迫ったときの方法を解説します。
2.護身術・・・つかうとこうなる
護身について考える前に、必ず理解していただきたいことがあります。
「護身術や護身用品によって生じた結果は、全て自己責任である」ということ。
どんな結果になろうと、責任を負うのは他の誰でもない自分自身です。
2-1 護身術をつかった後に待つもの
自分や大切な人を守った結果として、相手(暴漢)にケガを負わせることは、当然あり得ます。
ここで問題になるのが、「正当防衛」と「過剰防衛」
しかし殺意をむき出しに、突然おそいかかってくる相手に対して、手加減などできるのでしょうか?
これはどう考えても簡単ではありません。
つまり、正当防衛になるのか、過剰防衛になるのかを、自分でコントロールすることは、ほぼ不可能といえます。
いうなれば「運」次第であり、むしろ過剰防衛になる可能性の方が高いと考えるべきでしょう。
しかも、仮に正当防衛が成立したとしても、それまでには1年もしくはそれ以上の係争期間が待っています。
結果的に正当防衛が認められたものの、その間に仕事や家族など大事なものを失った人は珍しくないのです。
本来おそわれた人は被害者です。
こんな不合理にさらされるのは、とても納得できません。
だからといって、反撃しなければ命の危険すらあり得るという2重の理不尽さ。
このように、どんな理由であれ、暴力は巻き込まれた時点で何らかのダメージが確定している“悪夢”といえます。
しかし、これが現実である以上、被害を最小限にする方法に目を向けるしかないのです。
2-2 護身は「術」よりも「体力」
もしも力のつよい相手に掴まれた場合、その手から逃げることは容易ではありません。
つまり自分よりも大きい者から身を守るには、掴まれないように距離を保つことが重要になります。
相手が武器を持っている場合はなおさらです。
しかし実際には、自分の意思とは関係なく、掴まれてしまうことが珍しくありません。
ただし襲撃者の目的が、あなたへの暴力ではない事もあるでしょう。
その場合は、抵抗することで相手が逆上し、本来うけないはずの暴行をうける可能性があります。
無抵抗によって得られる見返りが、身体的な被害を上回ると判断したら、抵抗しないほうが良い場合もあるのです。
しかし現実の修羅場において、選択肢というのは多くありません。
結局のところ、重大な危険を前にしたときは、あきらめずに抵抗するしか方法がないことがあります。
闘いを有利にするのは、「体重」と「筋力」と「武器」を持つこと。
なぜ多くの格闘技が階級制なのか?
体格の差はいかんともしがたい壁だからにほかなりません。
その差を補うには、大変な稽古を積むか、すぐれた道具を手にするかの二択です。
護身術や武術に対する価値観は、この現実のとらえかたで変わります。
2-3 護身術とメンタルの関係
たまに「ペンや尖ったもので相手の目を突け」といった指導を見ます。
実際に、力の弱い人が強い者に掴まれたばあい、有効な攻撃は「噛みつく・尖ったもので刺す」の2つに限定されます。
しかし平和な日本に暮らす一般の人が、人間の眼球にペンを突き立てることなど出来るでしょうか?
普通の良心を持つ人は、いくら相手が犯罪者でも、ケガを負わせることに抵抗を感じるものです。
一人ひとりが持つ、この良心こそが、平和な社会を維持するための欠かせない安全装置でもあります。
一部の異常者に対抗するために、多くの人が安全装置を外したら社会が成り立ちません。
しかしつまるところ、護身の原動力は闘争心です。
自分が助かるためには、相手を攻撃するメンタルが必要になります。
ちなみに私は、自分やクライアントに危害を加える相手に対して、ためらったり同情することはありません。
必要であればどんな攻撃でもします。
気に病んだとしても、一般の人のそれよりも遥かに小さなものです。
我々ボディガードが護身術を躊躇する理由は「過剰防衛のリスク」とそれによる「賠償」を避けるためであり、良心からではありません。
これは慣れと職業倫理と使命感。それに暴漢の健康よりも、服務の成功を重要視しているからだと思います。
ただし、そのような背景を持たない一般の方が、暴力をためらうのは当然であり、そうあるべきです。
よって暴漢相手と言えどもダメージが少なく、なるべく良心に反しない攻撃を選ぶ必要があります。
3.道具をつかって身を守る
素手で暴力に立ち向かうには、問題があるとわかりました。
では道具を使ったらどうなるでしょうか。
身の回りには、イスやペンなど武器や盾として使える物が多くあります。
しかし格闘技の下地がない未経験者には、かなり難しいのが現実。
そこで候補に挙がるのが、市販の護身用品です。
3-1 護身用品のメリットとデメリット
仮におそう側とおそわれる側の力の差を9対1としましょう。
正直なところ、この差はどんな護身用品でも逆転できません。
しかし点差をつめることなら十分に可能です。
不利であることに変わりありませんが、もしも力の差が6対4になれば、助かる可能性が4倍に上がるのです。
ただし、そのためには優秀な道具が不可欠になります。
とはいえどんな道具であっても練習は必要であり、とくに極限の状態で使われる護身用品は、練習なしには使えません。
「押す」「引く」だけで起動する防犯ブザーでさえ練習は必要です。
素手にくらべて、怪我をする危険が大きく減ることは間違いありませんが、せっかくの優れた道具も、持っているだけでは宝の持ち腐れになります。
いざという時に護身用品を使えるかは、使う状況と使う人次第です。
あと忘れてはならないのが軽犯罪法。
護身用品を携帯していると、高確率でこの法律に抵触します。
もしもカバンに入れているときに職質を受ければ、ペナルティーは必至です。
正当な理由でも実際に使えば、一時的とはいえ逮捕拘留されるでしょう。
持つか否かの判断は自己責任。
身の安全と軽犯罪法違反、2つをふまえて自分で判断するしかありません。
3-2 傑作護身用品「催涙スプレー」
国内で入手できる主な護身用品は「警棒・スタンガン・クボタン・催涙スプレー」です。
その中で、体力に自信のない人でも比較的つかいやすいのは、催涙スプレーになります。
(そのほかの護身用品は、少なからず基礎体力が必要です)
ただし効果を引き出すためには、最低限の知識と練習が欠かせません。
ちなみに催涙スプレーのメリットは3つ
- 誰が使っても効果に差がない(使う人の性別や体格を選ばない)
- 遠くから狙える(安全な間合いから攻撃できる)
- 後遺症など深刻なダメージを与える心配がすくない(過剰防衛になりにくい)
これらを満たした護身用品は他にありません。しかもすべて重要なポイントです。
ただしデメリットもあります。
- まわりに飛散するおそれがある(無関係な人を巻き込むかもしれない)
- 効果があらわれるまでに10秒前後のラグがある(その間は逃げ続けなければならない)
完璧な護身用品はありませんが、数ある選択肢の中で、催涙スプレーが最も優秀なことは間違いありません。
※市場にはほとんど効果のない粗悪品も出回っているのでご注意ください。
参考記事:催涙・防犯スプレーの効果的な使い方&オススメ3種|動画あり
3-3 防犯ブザーがあたえる大きな効果
防犯ブザーというと、小さなお子さんが持つイメージがあります。
ただし大人が持っても有効なので、深夜の帰宅が多い女性におすすめです。
防犯ブザーは周りにSOSを知らせる道具なので、それ自体に攻撃力はありません。
また防犯ブザーに対して「鳴らしても意味がない」「相手が逆上しかねない」など否定的な意見もあるようです。
しかし私は、持つだけでも意味があると考えます。
防犯ブザーを有効に使う方法に「夜道ではあらかじめ握る」があります。
いざという時、すぐに鳴らせるのはもちろんですが、手にすることで警戒心が立ち振る舞いに現れるのです。
犯罪者は無差別に獲物をえらびません。周囲を警戒している人と、していない人を見分けています。
ブザーを握るという動きは、意識を切り替えるきっかけに最適です。
狙われにくい人になることは、立派な護身術なのです。
また、ある誘拐犯が「ランドセルに防犯ブザーを提げていない子を狙った」と供述したことがありました。
犯罪者の目線で考えた場合、防犯ブザーを提げている子供は、それだけで獲物から除外される可能性があります。
中にはブザーなどお構いなしに連れ去る者もいるでしょう。
それに子供狙いの誘拐は、力ではなく言葉巧みに連れ去るケースが多いのも事実です。
しかし少しでも犯行の障壁になるなら持たせるべきではないでしょうか?
子供には「たたかう」という選択肢がありません。
イタズラ鳴らしなど問題もありますが、ぜひメリットに目を向けていただきたいと思います。
ただし単純に見える防犯ブザーも、効果的に使うためのポイントがあります。
参考記事:防犯ブザー持ってるだけじゃダメ!効果的な使いかた4つ|動画有
3-4 最後に
そもそも護身や防犯に、正解はありません。
想定しきれない状況の中で「この技は使えるとか使えないとか・・・」「この護身用品は良いとか悪いとか・・・」万能を求めることが無理なのです。
空手に「内回し蹴り」という技があります。
刃物を相手に使うと足に深刻なダメージを負う可能性があり、使うべきではないと主張する人がいます。
実際この意見は間違っていません。
おそらくその人は実際にケガをした経験があるか、誰かから聞いたのでしょう。
しかし私はこの技で、実際に何度も身を守った人物を知っています。
つまり同じ事をしても、使う状況と人によって結果は変わるのです。
私はボディガードなので、危険回避の引き出しがたくさん必要です。
護身術はその一つですが、成功率が高くないことも知っています。
またボディガードという、結果がすべての職業にある以上、有事にあたって護身術のような安定性に欠ける方法は選びません。
しかしこれは、他に選択肢があればの話。
小田急線内の凶行犯も、先日の京王線の犯人も「停車駅が少なく犯行がしやすい(逃げ場がない)から快速急行を選んだ」と供述しました。
もしも運悪くこの電車に乗り合わせたとして、せまい車内で数分間も刃物から逃げることは不可能です。
つまり闘って身を守るしかないでしょう。
その場合は、あえて危険度の高い攻撃をすることはありませんが、手加減もしません。
護身術をつかう状況は、いうなれば野獣との闘いです。
武器を持った相手は、我々のような職業の者にとっても、心底おそろしいのです。
できればそんな状況に遭遇しないように、また最悪でも素手で立ち向かう必要のないように、平素からシュミレーションするべきでしょう。
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
ボディガードと探偵の依頼先をお探しの方に、条件やご要望に合う優良な警備・探偵会社を無料でご紹介。
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護身術も護身用品も100%守ってくれるものはないですよね、、。本当に身を守りたいとき、一瞬で相手の目をつぶすか、動けなくするか、殺せるくらいの方法があればいいんですが、、、。ちょっと痛がらせるくらいが限界なのでしょうか。
コメントありがとうございます。
護身術で身を守るという事は、相手にケガを負わせる事を意味します。
現代社会ではいかなる理由でも、暴力が肯定されることはありません。
正当防衛も簡単には認められません。
とはいえ、自分の身を最優先に考えたら、襲いくる相手に対する配慮には限界があります。
護身とは矛盾と無理難題だらけです。