【ボディガードの体験談】エピソード7|葬儀場での骨肉の争い
ボディガードの体験談7回目になります。
前回からは、一般の方にとっても身近なご依頼内容を紹介しています。
ボディーガードの体験談一覧
今回は葬儀の場での警護について。
ボデタンナビの警備料金の目安でも紹介している内容です。
冠婚葬祭は、普段は滅多に会わない人が顔を合わせる場所。
うれしい再会ばかりではなく、
中にはトラブルになりかねない、因縁の顔合わせもすくなくありません。
今回も実際にあった警護の現場から、一つの事例を紹介します。
詳細は、トカレフの男と柳葉包丁の襲撃者でも実体験をお話しいただいた、M氏にうかがいました。
結婚式をふくめて、
セレモニー中のトラブルに関するご相談は、たいへん多いご依頼のひとつです。
※内容は実話ですが、
個人情報保護の観点からアレンジを加えています。
M氏プロフィール
25歳のとき某身辺警備会社に入社、警護歴27年。
前職はアパレル系と、業界では珍しい経歴の持ち主
身辺警護の体験談|葬儀場での骨肉の争い
今回のテーマは、お葬式や結婚式など「式典での警護」ですが、
なぜそのような場で警護が必要になるのでしょうか?
まず共通して言えるのは、
そういった場所では、
普段は会う機会の少ない親類縁者が、一堂に会するという点です。
もちろん多くは、再会を喜ぶ仲ですが、
中には二度と会いたくない者同士という事もあります。
しかもそのような場ですので、欠席するわけにもいきません。
これまで避けていた相手と、会わざるをえないのです。
ではその中から、参考になりそうな事例をおしえて下さい。
はい、ではあるご兄弟の事例をお話しします。
当事者の関係が「兄弟」というのは少なくありませんので。
その現場は、ある高齢の女性の通夜と告別式でした。
時期や場所についてはご容赦ください。
丁度いまのようなジメジメした季節のことです。
依頼人はその葬儀の喪主で、53歳の男性。
故人の長男です。
その方には4歳下の弟さんがいました。
今回の警戒対象者ですか?
そうです。
お二人とも結婚していましたが、弟夫婦に子供はいないとのこと。
今回の依頼人である兄夫妻は、
長年にわたって、近所に住む母親の世話をしていたそうです。
一方弟さんは他県に住んでおり、
15年以上会ってもいないし会話も無いとのことでした。
よほどの理由があったんでしょうね?
金銭問題ですか?
詳しくは知りません。
しかしお金の話では無かったようです。
ご依頼人には既に成人した娘さんがいましたが、
原因は彼女と弟、つまり彼女にとって叔父とのトラブルの様でした。
それは相当デリケートな問題を含んでいそうですね?
はい。
なので私も詳細は聞いていません。
ご依頼人も話したく無さそうでしたので、あえて聞く必要はありませんでした。
とにかく大変な確執がある弟と、葬儀の場で会わなければならないと。
しかも
「弟は自分に恨みがあるので正直会うのが怖いくらいだ」
とおっしゃっていました。
さらにお母さんが他界されたことで、
財産分与など、否が応でも面倒な会話が発生しそうですね。
そうですね。
ただし、その辺のやり取りは弁護士に一任する予定なので、
「弟と直接なにかを話す必要はない」
とおっしゃっていました。
お母様も二人の関係は十分に理解していたので、
財産分与で揉めないような整理の仕方をしていたそうです。
そうはいっても母親ですからね。
息子二人が疎遠どころか犬猿の仲なのは、お辛かったでしょうけど・・・
では具体的な警備の方法をお聞かせください。
まず本件の警備主旨は、
「葬儀の円滑な進行」です。
そのためにも、なるべく弟さんを依頼人に近づけない必要があります。
具体的に言うと、
- 弟の動向の監視
- 必要以上の会話を求めたり、攻撃的な兆候が見えた場合は速やかに会場の外へ連れ出す。
この2点がミッションになります。
そのためにも、
相手の気持ちを逆撫でしないことは必須です。
こういった案件では、警備であることを前面に出すものでしょうか?
この案件は、私1名でおこないましたが、
警備であることを匂わせないために、参列者のフリをしています。
もし弟さんに、私の身分を聞かれた時は、
依頼人の「会社の部下」という事で口裏を合わせることにしました。
葬儀の手伝いに来た人間であれば、
式場を動き回っても、依頼人と会話をしても不自然ではありませんし。
先ほど述べたように、式典中トラブルに発展したばあい、
弟さんを速やかに会場から退出させるのも重要な役目ですからね。
その場合、警備と名乗らない方が良いこともあるので。
トラブルになった場合、なるべく大ごとにならない様にすると?
そういうことです。
ただし何事も起きず、無事に終わるケースのほうが多いですが・・・
何も起きないケースのほうが多いのですか?
そうですね。
実際に何らかのトラブルが発生するのは、2割以下でしょう。
ほとんどのケースでは、我々の出番はなく終了します。
そしてそれがベストなのです。
今回のケースではどうだったのですか?
まったく問題のないケースだと、これ以上話すことがありません。
なので稀に起きるトラブルの中でも、発生しやすい状況についてお話します。
ではお願いします。
本来こういった案件の場合、2~3名でおこなうことが多いのです。
しかし今回のケースでは、ご予算の都合で1名体制になりました。
1名でも問題はないのですか?
問題がないというと語弊があります。
3名にくらべて明らかに警備力が落ちますので。
このような第三者が大勢いる場所での警護は、
相手が暴れた場合に、無関係の人を巻き込まないように、
迅速に取り押さえる必要があります。
そのためにも1人より2人、2人より3人と、
警護を厳重にすることが理想です。
しかし予算など、クライアント個々に事情がありますので、
警備規模などは、可能な限りご要望に応じています。
一名では到底ムリな内容もありますが・・・
なるほど、では今回の内容をお聞かせください。
はい。
警護は、通夜と翌日の告別式の2日間。
両日とも私が担当しました。
問題が起きたのは、初日のお通夜のときです。
ちなみに通夜も告別式も、メインの会場は同じセレモニーホールです。
規模はあまり大きくなく、
ご近所さんと思われる参列者が中心の、50名ほどのお式でした。
通夜の開始は18時でしたが、
念のため2時間前、16時に上番(警備開始)しています。
ただ弟さんが到着したのは思っていたよりも遅く、17時30分ころでした。
理由はわかりませんが、奥さんは同伴しておらず、1人で見えられました。
夫婦二人か旦那さん一人。
警備的にはどちらの方が都合よいのですか?
これは奥さんの性格によるので一概に言えません。
旦那さんをいさめるタイプの方もいれば、一緒に騒ぎ立てる人もいるので・・・
それはそうですよね。
遮ってすみません、続きをお願いします。
お焼香と読経のときは、
お兄さん・弟さんともに親族席に着席しています。
故人の息子なので当然ですね。
ただし弟さんの席は、
なるべく兄夫妻から遠い位置にしてもらうように、
式場側に配慮してもらいました。
しかし読経中はもちろん、
その後別室でおこなった参列者への食事の振る舞いの席でも、
彼が近づいてくることはありませんでした。
弟さんが依頼人に近づいてきたのは、
一般の参列者が全員引き上げたあと。
親族一同も会場を後にしようとしていた時です。
緊張の瞬間ですね。
その日初めて、お兄さんと話すために近づいてきたので、
私もそれとなく移動しました。
万一の際は制止するためです。
弟さんは前置きもなく話し始めました。
内容は、葬儀費用の一部を自分も負担するという打診です。
弟さんからすれば当然の感情でしょうね。
そうですよね。
この段階で割って入るのは早すぎるので、
すぐに介入できる位置で様子を見守りました。
具体的にはどの位置ですか?
弟さんの1,5mほど後ろです。
依頼人は弟さんの申し出に対して、
「弁護士と話してくれ」と、そっけなく言いました。
弟さんも弁護士のことは承知しているようでしたが、
言い方が気に食わなかったんでしょう。
カバンから分厚い封筒をだして
「こんな事でいちいち弁護士なんか通していられるか!受け取れよ!」
と語気が荒くなり始めました。
気持ちは分かりますが、お兄さんの言い方も良くないですね。
当然お兄さんは受け取らず、押し問答が5分以上続きました。
最終的には双方ともに、かなりの怒鳴り声になり、
おどろいた職員数人が見に来るほどでした。
Mさんはどうされたんですか?
とりあえず様子見を続行です。
この時点で会場には15人ほどがいました。
しかし一般の参列者はお帰りになっていたので、
残っているのは、事情を知っている親族だけです。
そんな状況なので、
あせって私が間に入る必要は無く、
むしろこじれさせかねないと判断しました。
また依頼人とは事前に、
助けが必要なときの合図も打ち合わせています。
もしも必要な時は私をみて数回うなずく。
逆に必要無い時は首を横に振る、と。
依頼人は首を振っていました。
翌日も会わなければなりませんしね。
そうなんです。
弟さんも揉めるのは不本意だったと思うんです。
ただしこうなると売り言葉に買い言葉。
一度振り上げた拳をおろすのは簡単ではありません。
他のご親族も「ではまた明日」と、帰れる空気ではありませんでした。
そこで差し出がましいかとは思いましたが、
わたしが間に割って入り
「ここではなんだから、別室で話されたら如何ですか?」
と、半ば強引に別フロアの親族控室に案内しました。
個室でゆっくり話しをさせたと・・・
それだと長丁場になりませんか?
その心配はありませんでした。
会場に居られるのはあと30分ほどなので。
いずれにせよ、それ以降は外に出なければならないので。
しかも周りに人がいると、二人とも引くに引けません。
そこで私も立ち会い、話しを続けてもらいました。
弟さんはⅯさんが誰か聞かなかったのですか?
ええ、
それどころか帰り際にお礼を言われました。
どうやらセレモニーホールの職員と思ったようです。
そこでは15分ほど話しましたが、
結局それ以上揉めることはなく、
葬儀費用の件は、後日弁護士に相談する事になりました。
随分簡単に落ち着きましたね?
いくつかポイントがあったと思うんです。
まず最初に大声で怒鳴りあった点。
その後に場所を変えて仕切り直した点。
あと第三者の私が立ち会った点です。
どういうことでしょう?
最初の怒鳴りあいは、二人の感情のピークでした。
その勢いを放置すると、どちらも引くに引けなくなります。
暴力沙汰というのは大抵回避できるものなんです。
逮捕されたり刑務所に行くことなど、本来は誰も望んでいませんので。
場所を変えた理由には、時間をおいてクールダウンさせる狙いもあったんです。
なるほど!
別フロアの控室に案内した理由はそれだったんですね?
別フロアだったのは偶然です(笑)
しかしインターバルの時間を、少し多くとれたのはラッキーでした。
因みに控室までの移動中に、
「声のトーンを二つほど落とすと、弟さんも冷静になりますよ」と、お兄さんには伝えました。
なるほど。
さらに第三者が、目を光らせているとなると、なかなか暴力に発展しにくいものです。
なるほど…
よく考えられた作戦だったんですね?
どうでしょう(笑)
この場合はうまくハマりましたけど・・・
まぁあくまで理想論ですね。
しかし暴力の多くは売り言葉に買い言葉で始まります。
つまり言葉に気を付ければ、多くの被害は避けることができるのです。
翌日の本葬儀ではトラブルは起きなかったんですか?
はい。
告別式は翌日の10時から15時頃まででしたが、
弟さんが話してかけきたのは、帰りぎわの挨拶だけです。
少し切ないですね・・・
しかし現場的にはこれで終了したと。
そうですね。
初日に小競り合いが起きてしまいましたけどね。
このようなセレモニー関連の案件は多いですが、
小さなトラブルすら起きないケースがほとんどなので。
実際にトラブルが起きるのが2割以下でしたっけ?
そうすると、深刻な暴力にまで発展するのは本当に極わずかですね。
正確には分かりませんが、全体の3%以下でしょう。
しかし僅かとはいえ、そういった事案も確実に存在します。
分母・・・つまり需要が多い依頼内容だからこそ、
一切油断できません。
似たような案件で、今までに大きなトラブルが起きたことはありますか?
ナイフを手にした男が乱入して、警察沙汰になった事がありました。
その時は、会場に入る前にエントランスで取り押さえましたので、
幸いケガ人は出ませんでした。
それも葬儀関連ですか?
いえ、結婚式です。
新婦の分かれた元彼でした。
要はストーカーですね。
いずれ機会がありましたら、その話も聞かせてください。
いかがだったでしょうか?
M氏の言葉にもあったように、実際に暴力や刃傷沙汰に発展するの極わずか。
しかし前回のストーカーとの話し合いとは違い、相手とは切っても切れない関係。
勘当だ絶縁だと言っても、生涯会わないというわけにはいきません。
その分ストーカー以上に配慮が必要なうえ、近似のご依頼内容の多い案件です。
警護のご依頼にお悩みの方の、参考になれば幸いです。
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
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