【ボディガードの体験談】エピソード5|自分から自分を守りたい依頼人【前編】
ボディガード体験談の第5弾です。
今回はキャリア26年のKというボディガードが、7年前に経験した変わったご依頼。
身辺警護の仕事としては、かなり異質な内容です。
インタビューはしたものの、いわゆる「ボディガード」のイメージからは、かけ離れているで、ボツにしようか悩んだ本記事。
しかし現在の警備業が、どれほど幅広いご依頼に対応しているか。
その事実を語るうえでは、むしろ好事例なのでは?ということで、ご紹介する事にしました。
民間の身辺警護の仕事は、暴力からご依頼人を守るだけではありません。
しかし、こういった本来の警護業務からかけ離れた依頼は、日本独特かもしれません。
※個人上保護の観点から、アレンジを加えていますが、内容は全て事実です。
身辺警護の体験談|自分から自分を守りたい依頼人【前編】
では自己紹介をお願いします。
Kと申します。現在51歳です。
25歳の時に、サラリーマンから転職しました。
警護歴は26年になります。
普通のサラリーマンですか?やはり身辺警備業界は、元警察官が多のですか?
警備業全体でいうと元警察関係者が多いですが、4号業務、いわゆる身辺警備に関しては、元自衛隊の方が多いかもしれませんね。
では今回は、Ⅰさんが経験した中で、とくに印象深かったお仕事を聞かせてください。
いまから9年前なので、警護歴17年のときの事です。
ご依頼人は、東京郊外の某市にお住いのサラリーマンの方でした。
内容を簡単にいうと「妻を見張っていてほしい」と。
奥さんの監視・・・浮気調査ですか?
いいえ、こっそり見張るわけではありません。
ご自宅にお邪魔して、奥さんが外部と接触できないように、家に閉じ込めておくんです。
えっ!大丈夫ですか?
コンプラどころか法的にアウトな匂いがしますが・・・
そう思いますよね(笑)
わたしも最初そう思いました。
しかし監視は、奥さんの命を守るためでして・・・つまり奥さんも同意しています。
詳しく教えてください。
この奥さんは重度のアルコール依存症です。
ご本人にも、病気を治したい気持ちはあるのですが、自分の意志では、どうにも止められないんですね。
常にだれかが、酒を飲まないように監視している他ないんです。
しかしご主人は日中お勤めに出ているので、見ていることは出来ません。
つまり奥さんの飲酒を止める人が誰もいないと。
病院でなければ根本的な解決は無理な気がしますが・・・
はい、もちろん病院には相談しています。
というよりも、それまでに何度も入退院を経験したそうです。
旦那さんのお話しでは、入院期間はせいぜい3カ月程度で、それを過ぎると、完治していないのに退院させられるそうです。
結局、何度入院しても症状は改善せず、退院しては飲み始める、の繰り返しだったようですね。
病名など詳細は失念しましたが、完治はむずかしいほどの重症と聞きました。
ハッキリ言って、私がそれまでにイメージしていたアル中など序の口です。
この件を通じて、依存症の怖ろしさを痛感しました。
ボディガードの依頼としては相当変わってますね。
ストーカーや襲撃者からのガードだけが仕事ではありません。
精神疾患の患者さん関係のご依頼も、しばしばいただきます。
しかし依存症の人の監視は、その後も経験がないです。
イメージしやすいように、奥さんがどんな人だったか教えてください。
年齢は40歳くらいだったと思います。
身長は155㎝くらい、おだやかで品のある方です。
知らない人が見たら、
そんな病気を抱えているとは想像もできないでしょうね。
ただし眼窩のくぼみと、恐ろしくやせ細った体からは、独特の雰囲気が漂っていました。
多分体重は40キロも無かったんじゃないかな?
痛々しいですね・・・
部屋に元気だったころの写真が飾られていたんですが、別人にしか見えません。
最初はそのギャップに衝撃をうけました。
しゃべる声が、とにかくか細いんです。
初日にご挨拶した時も、何と言ったか聞き取れませんでした。
ご主人が私のことを紹介しましたが、ただ興味がなさそうに、うつろな目で私を見ていたのが印象的です。
残念ですね、Kさんイケメンなのに。
では具体的なお仕事の内容を聞かせててください。
はい。お住まいは4階建てのマンションの4階です。
警備時間は、朝ご主人が玄関を出てから夕方帰宅するまでの10時間。
具体的には平日の8時から18時だったと思います。
基本的に私はご主人の書斎に待機し、奥さんは居間か寝室で過ごしていました。
赤の他人の私が常に目の前にいては、まったく気が休まりませんからね。
それがストレスで、病状が悪化したら元も子もありませんし。
日々のわたしの仕事は、
- 奥さんの外出の防止
- 1日1回の買い物の同行
- 訪問者の対応
- 奥さんの様子をチェック(自傷行為の防止)
おもに、この4つです。
しかしサラリーマン家庭に日々の警護代は負担でしょう。
この旦那さんは、某上場企業にお勤めでしたので、比較的余裕はあったと思います。
とはいっても、1日あたり3万円以上は掛かってと思うので、月に60万円以上の警護料は発生していたはずです。
個人にとって大きな負担ですよね。
中から開かないように外カギを設けるとか、
ほかに安上がりな方法がありそうですが。
外カギは付いてました。
しかし中に閉じ込めただけでは意味がないんです。
じつは部屋から出られないように、外カギをして会社に行っていた時期があったそうです。
玄関が開かなければ、仮に通販で酒を注文しても、受け取る事が出来ませんから。
なのにです。
ご主人が帰宅すると、
明らかに飲んだ形跡があるそうなんですよ。
つまり酒を手に入れるルートがあるんでしょうね。
そのときは入手方法を確かめるために、会社を休んで外から監視したと言っていました。
どうやって手に入れていたんですか?
酒屋さんをベランダの下に呼び出すんです。
お金を入れたカゴを紐で降ろして、そのカゴに酒を入れさせて引っ張り上げていたそうです。
結局のところ目を離すと何としても酒を手に入れるので、常に誰かが見ているしかないわけで・・・
恐ろしい病気ですね。
性格的に豹変したりとかはなかったんですか?
何度もありました。
さきほども言いましたが、普段は温厚で上品な方なんです。
しかし3・4日に一回ほど
「外に出せ!」とわたしに詰め寄り大暴れすることがありました。
暴れると言っても、小柄な女性なので、大した暴力ではありません。
ただし罵詈雑言はすさまじかったですが・・・
ご主人いわく、このような豹変は毎晩だったようです。
他人である私にはギリギリまで耐えていたんでしょうね。
ついに耐えきれないときに爆発したのだとおもいます。
相当苦しかったでしょう・・・そう考えると、本当に不憫になります。
依頼期間はどれくらいだったんですか?
当初は不定期で、良い治療先が見つかるまでという話でした。
結局見つかったのは、約3カ月後です。
けっこう長期ですね
じつはアルコールのせいで摂食障害を引き起こしており、余命宣告もされていたそうです。
ただちに適正な治療をしないと、半年もたないだろうと・・・
しかもアルコールの摂取自体が死につながりかねないので、一滴も飲んではいけないと、医者から言われたと聞きました。
本当に命がかかっていたんです。
大袈裟ではなく、奥さんにとって酒は毒と同じなわけですね。
その通りです。
それにですね、仮に酒を飲んでもすぐに吐いてしまうんですよ。
凄まじい飲酒の欲求とは裏腹に、身体がボロボロで、アルコールを受け付ける体力もありませんでした。
飲めば吐いて苦しむと分かっている。
それでも飲みたいという・・・まるで地獄です。
あと過去に何度か自傷行為もしていたので、その点にも警戒が必要でした。
自殺願望があったのですか?
常に「死にたい」と思っている訳ではありません。
しかし感情の起伏がはげしいので、
何かの拍子に、手首に刃物を当ててしまうんでしょう。
もちろん、そのタイミングは誰にも分かりません。
Kさんの待機場所は別の部屋ですよね。
どう警戒したんですか?
私の存在がストレスにならないように、出来る限り顔を見せないようにしていました。
それが契約条件でもあったからです。
しかしそうすると、奥さんの様子は確認しずらくなります。
基本的には音や気配で異変を察知するしかありません。
うーん・・・もう少し現実的な答えを期待していたのですが・・・
すみません(笑)
気を抜かないのは前提ですが、それは運まかせと同じですからね。
じつは居間のドアがガラス張りだったのが幸いでした。
30~60分に1回のペースで、そこからこっそりと確認したんです。
ただし寝室に入られると目視できません。
朝の表情や雰囲気から、その日の心理状態を推測していました。
寝室に閉じこもったからと言って、自傷行為に及ぶとは限りませんからね。
そうなんです。
しかも寝室を頻繁にノックされたら、だれでも嫌ですよね?
そうも言ってられないときは、
無理やり用事をつくってノックしてましたが・・・
結局のところ「勘」に頼らざるを得ない場面も少なくありませんでした。
幸い警護期間中に、奥さんが自傷行為をすることはありませんでしたが・・・
しかし依頼人にストレスをあたえずに、監視性を高めるのは、むずかしい課題です。
一日中部屋で待機されることが多かったんですか
はい。
あと毎日の買い物が奥さんの日課だったので、その同行です。
いつも一時間くらいかけて、近所のショッピングモールまで徒歩で行きました。
並んで歩いても、最初はほとんど会話がありません。
しかし毎日一緒に買い物に行くと、少しづつ人間関係がつくられます。
他愛もないことを話しかけたり、荷物を持ってあげたりしているうちに、
だんだん打ち解けてくれるようになりました。
このようなご依頼だと、とくに心の距離感が大事ですからね
2週間ほどすると、お酒をやめたいけど自分の意志ではどうにもできない辛さなど、自分の気持ちを語ってくれるようになったんです。
最初にくらべると、だいぶリラックスして見えました。
では問題はおきなかったんですか?
いえ、残念ながら大きな問題が起きたんです。
開始から3週間目の事だったと思います。
その日は土曜で、わたしは休みでした。
昼過ぎに旦那さんから私の携帯に直接電話があったんです。
「妻が酒を飲んで吐いている」と。
あの家に酒は置いてありません。
あるとすれば、奥さんが私の目を盗んで買ったとしか考えられないと、
旦那さんは興奮気味に言うのです。
Ⅰさんが彼女の行動を見落としたと?
そのときはわかりませんでした。
しかし買い物の時は、私の目の前で会計もしています。
隙を見て買ったとは考えられません。
万引きも疑いましたが、
そもそも酒類をあつかう売り場は、立ち止まってもいなかったんです。
ちなみに料理酒やみりんも、いっさい買いませんでした。
どこで手に入れたんでしょうか?
電話では何も判断できないので、
とりあえず、お宅へむかいました。
旦那さんもかなり興奮していたので。
1時間後にお邪魔すると、旦那さんが沈んだ表情で招き入れてくれました。
急いで休日出勤されたんですね?
「奥さんは大丈夫ですか?」と聞くと、吐き疲れて寝室で横になっているとのこと。
幸い病院に行くほどではなかったそうです。
しかし居間ではなく書斎に通されました。
奥さんの隣の部屋では、話したくないのでしょう。
書斎に入ると「申し訳ない!」とご主人が頭をさげました。
「酒は買ったものではなく、たぶん家にあったのだと思う」
と言うのです。
家に酒は無いと言ってましたが?
旦那さんの話では、半年ほど前にも、目を離したすきに飲んでいたそうなんです。
もちろん家に酒はありません。
「どこかに酒を隠しているに違いない」と疑い、家中を徹底的に捜索したらしいです。
くまなく探した結果、見つけたのは、ウィスキーやワンカップなど計3~4本。
中にはくりぬいた壁にフタを作ったり、まるで映画さながらの隠し場所もあったというから驚きです。
そこまでされると素人では探しようがありません。
そうなんです。
ご主人的には、あれだけ徹底的に探したのだから、他には無いと確信していたそうです。
でも見落としがあるのでは・・・と?
はい。
しかしあれ以上は、自分で見つけ出す自信がない。
なので盗聴発見業者に家探しをしてもらえないか?と、相談されました。
ご主人が言うには、「隠れたものを探す、一番のプロはマルサか盗聴発見屋」ということらしいです。
酒と盗聴器では全然違いますが・・・
そうなんですよ。
盗聴器と違い、酒は電波を出していないので、目で見て探すしかありません。
しかし実際にやると、これは想像よりも、とんでもない作業でした!
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
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