【ボディガードの仕事】警棒術公開③|小手の打ち方と練習方法|動画あり
この記事の著者:一般社団法人 暴犯被害相談センター
代表理事 加藤一統 (ボディガード歴26年)
以前ご好評をいただいた
警棒術の禁じ手|実戦に使える技=使ってはいけない技【動画あり】
の補足として、警棒の基本である「小手の打ち方」と「振り出し(伸ばし)方」
さらに、効果的な警棒トレーニングの方法を紹介します。
警棒は「打撃・関節・絞め」あらゆる技に応用できますが、攻撃の基本は「叩く」です。
中でも最も有効で多用されるのが小手。
ただし小手打ちは、骨に直接打撃をあたえる「危険な技」でもあります。
※今回も、おもに現場の警備員さんに向けた内容です。
そもそも警棒は、一般の方の護身には向きません。
使い方を誤ったり、無意味に携帯すると、確実に罪に問われます。
1.警棒の基本にして最も重要な技「小手」
小手は、実戦で頻繁に使われる技です。
しかし相手の安全への配慮から、多くの教本は、「締め」や「関節技」を推奨しています。
ただし、それらは習得が大変むずかしく、よほどの熟練者でないと実践できません。
1-1 ポイントは打つ「部位」と「速さ」
多くの指導者が、安全の観点から、「僧帽筋・三角筋・前腕筋群」など、骨ではなく、分厚い筋肉への打撃をすすめています。
たしかに、攻撃を受けた相手のダメージは少ないのですが、そのため、すぐさま反撃を受けるおそれがあり、自分自身に危険を増やしかねません。
この点をふまえると、最も有効な打撃部位は手の甲と前腕の骨(とう骨や尺骨)であり、そこにダメージを受けると、相手の攻撃は大きく制限されます。
ただし、金属棒で骨を叩く以上、相手を骨折させる可能性は十分に考えられます。
しかし、安全(効かない)な部位を叩いた場合、相手を逆上させたり、何度も殴打して、むしろ重大なケガを負わせるリスクもあるのです。
いずれにせよ「襲う側・襲われる側」の双方に安全な方法がない以上、自分自身の安全を優先するのは、当然ではないでしょうか?
そのうえで、相手のダメージに配慮すると、できるだけ少ない回数で、効果的な場所を打つのがベターでは?と考えます。
ただし、やむを得ないとはいえ、他人に攻撃を加える以上、過剰防衛や賠償責任が発生する可能性はさけられません。
1-2 小手の打ち方:その1
警棒に十分な威力を与えるには、まず警棒自体の重さを生かす事と遠心力やスナップが重要です。
この打ち方のメリットは2つ
- 威力とスピードのバランスが良い
- リーチが伸びる
警棒に遠心力をあたえる際、ネックとなるのが、警棒が縦回転するときの、下から上に持ちあげる区間での減速です。
円運動の最下部(6時)から、最上部(12時)までの180度は、落下による加速が発生しません。
そのため重力に逆らう必要が生じます。
また警棒が重いほど、その際に大きな力が要るため、ここでの減速が実戦では致命的になるのです。
これを防ぐために、下記の2つを意識しましょう。
- 警棒の先端が描く円をコンパクトにする。
- 先端の高さをあまり変えない。
こうする事で、6時から12時の先端の移動が少なくなります。
しかしそれにより失なわれた運動量を、肩と肘でカバーしなければなりません。
文章では伝わりにくいので、詳しくは動画をご覧ください。
モーションは大きくなりますが、切っ先がはしるようになります。
実戦ではスピードが重要です。
1-3 小手の打ち方:その2
下の動画のように、肩にかつぐ構えもあります。
この場合、遠心力が足りないため、その1の打ち方にくらべると、どうしても打撃力が落ちます。
しかしこの構えの大きなメリットは2つ。
- 最短距離を通るため速い(打ち遅れにくい)
- 相手に警棒をつかまれにくい。
十分な遠心力が発生しない分「握力と手首のスナップ」が重要になります。
2つのメリットを意識しましょう。
また相手に警棒をつかまれた場合、うばわれて相手の武器になる恐れがあります。
(体力差があるときに、この可能性は高くなる)
なによりも相手が刃物を手にしている場合、警棒をつかまれたら、ほぼ反撃は不可能です。
(刃物の間合いに留まったらアウト)
その他、参考までに、
警棒のコンビネーション例を紹介します。
上記:警棒のコンビネーションの例
1-4 気にしてますか?警棒の伸ばし方
一般的な三段式警棒は、振りだした勢いによって、接合部に強い摩擦がかかりロックされます。
これが「フリクションロック警棒」です。(以下摩擦ロック)
それによって、継ぎ目がないかのような、強度を得ています。
ただし一度伸ばした警棒は、コンクリートなど、固いものに先端を打ち付けない限り縮めることが出来ません。
そこで近年登場したのが、接合部を摩擦ではなく機械的に固定する、
「メカニカルロック警棒」です。(以下メカロック)
メカロック最大のメリットは、縮める際に固い床面を探す必要がなく、また縮めるときの大きな衝突音と金属音を、気にしないでもよい点でしょう。
(現金輸送など、実際に警棒を伸縮する頻度の高い業務の方に最適です)
しかし、摩擦ロックにもメリットは多くあるため、実際に警備の現場で使われている警棒は、ほとんどがこのタイプです。
まず一般的に摩擦ロックは、メカロックよりも安価なことに加え、最も重要な「強度が高い」というメリットがあります。(例外あり)
しかし、この「伸ばす・振り出す」という単純な動作にも、心掛けるべきポイントがありますので、映像を参考になさってください。
2.警棒について絶対に知っておくべきこと!
民間で警棒の携帯を認められているのは、警備員の皆さんだけです。
武器である警棒を合法的に与えられている以上、その責任を自覚したうえで、身につけるべき「技術」と「知識」があります。
2-1 撮影に使った警棒とおすすめトレーニング法
今回の撮影に使用した警棒
(左から、ノーベル社製・自作練習用・ASP製・ウィンチェスター製・ボノウィ製・ダンベルシャフト)
ウィンチェスター製21インチ警棒(54cm/780g)
大変重量があるので、練習に向いています。
また重さの分、振りかたによるスピードの違いが分かりやすいので、撮影にも使いました。
この警棒の発売当初の広告で、「かなりの重さによる強力な打撃のため、一撃で相手を制圧できる。
そのため軽い警棒で複数回たたくより、むしろ相手に安全」のような紹介がされていました。
一理ありますが、うのみにして頭部に一撃でも与えた場合、相手は脳挫傷、打った人間は傷害犯か殺人犯になります。
スペック的にも警備業法の規定を大幅に超えています。(現在は廃版)
ボノウィ21インチアルミ製(54cm/350g)
メカニカル(カム)ロックの警棒です。
アルミとスチール、2種類から材質を選べます。
アルミ製は軽く扱いやすいうえに強度があり、簡単に折れることはありません。
ボノウィの警棒はバランスが良く、とても振りやすいのですが、重量がオーバーしています。
残念ながら警備業には用いることができません。
手製の練習用警棒
以前の撮影では本物の警棒を使いました。
しかし防具で十分に保護したにもかかわらず、衝撃が大きく、受け手の安全が確保できなかったので、今回は模擬警棒を作りました。
木製の丸棒を、スポンジで覆った、練習に最適な警棒です。
※これでもスナップを利かせると、かなりの衝撃がありますので、結局プロテクターは必須ですね。
ダンベルシャフト
上級者には、警棒の代わりに、ダンベルシャフトを代用した練習や素振りをおすすめします。
高い負荷がかかり、かなりしんどいです。
※ただしダンベルシャフトには約2.5kgの重量があります。
それなりの腕力と十分なスペースが必要です。
初心者にはお勧めしません。
2-2 どの警棒でもいいわけではない!警棒と警備業法
たまに勘違いされている方がいますが、警備業法の範囲内であれば、好きな(自前の)警棒を業務に携行できるわけではありません。
警備業者が使用する警棒は、写真と具体的な情報を添付の上、公安委員会に届け出る必要があります。
つまり業法の規定に則しているだけでは持てません。
手続きされてない警棒は、携帯すると警備業法違反になります。
警棒は会社から支給されたモノ以外、使ってはいけません。
警備業者等が携帯する護身用具の制限等に関する規則
2-3 切っても切れない問題【警棒と法律】
弊センターのブログでは、ことあるごとに申し上げていますが、今回も強く警告します。
警棒にかぎらず、護身術で身を守るにあたっては、過剰防衛や損害賠償について考える必要があります。
この点は、なかなか映画やドラマで描かれません。
暴力には、加害者と被害者が存在します。
しかし「どちらが被害者で、どちらが加害者か?」この線引きが、はっきりしないケースが現実には多いのです。
つまり暴漢に襲われて、やむなく応戦したとしても、襲われた方が加害者になることもあります。
つまり現代社会において、「身を守る」という権利は、有罪と背中合わせなのです。
もちろん最優先は自分の身を守ること!
しかしその結果、過剰防衛や損害賠償などの「法的な責任」を負うこともあり得ます。
だからこそ、日々の生活の中で、危険の芽をつみ、犯罪に遭遇する可能性を、減らす努力が必要なのです。
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
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素晴らしい内容でした。
知らない事ばかりで目から鱗が取れる思いです。
今後ともブログ楽しみにしております。
文末に成りましたが、素敵な知識と動画
ありがとうございました。
いつもご覧いただきありがとうございます。
過分なお言葉いただき恐縮ですが、
これからもよろしくお願いします。