【ボディガードの体験談】エピソード1|はじめての身辺警護:後編

ビジネス初心者

前回の【実体験】はじめてのボディガードの続きです。

身辺警護歴20年以上のK氏にも、当然はじめての現場がありました。
彼はそこでどのような経験をしたのでしょうか?

前回では、
駆け出しボディガードながら、手探りで恐怖と戦い続けた彼ですが、
身辺警備の印象とはかけ離れた意外な結末を迎えます。

映画やドラマとは違う
日本のボディガードの現実が、お分かりいただけます。

はじめての身辺警護(後編)

《前回》の続き

いずれにせよ、かなり早い段階から、彼女には何となく違和感がありました。

ボディガード勘ですか?

しょせん素人ボディガード

これが私の人生はじめての現場ですから、ボディガードの勘などあるわけないですよ(笑)

研修と半年の制服警備の経験だけでは、判断しようもなかったのですが、
今思えば、
真知子さんの物腰・仕草の全てが、恐怖を感じている人間のモノでは無かったんですかね。

ただし彼女が何らかのストレスを抱えていたことは確かで、
平常時の人間とは、明らかに違う精神状態でした。

しかしその違いは、一般の人には分かりにくいものです。
近くで見ていた両親が気付けなかったのも無理はありません。

私自身、数日たってようやく僅かな違和感に気付いたのですから、偉そうなことは言えませんよね。

話は戻りますが、脅迫者は花子であると?

脅迫者の正体

と言うよりも、
真知子さんの狂言・自作自演に、花子が協力していたのだと思います。
理由は友情だったのか金だったのか・・・

今となっては見当もつきません。

ただしこの件に関しては、
私が追及すべき事ではないので、気付かぬ振りをしました。

当然会社には、顛末と真相を報告していますが。

会社は何と言いましたか?

そのまま気付かぬ振りを続けるように指示されました。

当たり前ですよね。
具体的な見積りは知りませんが、
彼女の案件は相当の実入りだったと思いますし、
会社としては彼女の目的はともかく、現場が継続するなら文句ないわけですから。

しかしその後、2つの大きな事件があったのです。

事件とは穏やかでありませんが?

事件その1

一つ目の事件は、
初日から2カ月近く経った頃に発生しました。

私が下番(警備用語で服務終了)した後、
駅で帰りの電車を待っていると、真知子さんから電話がありまして、
「今小宮が押し掛けてきている!殺される!!」と。

嫌な予感がしましたが、無視するわけにもいかず、
大急ぎで彼女のマンションに引き返しました。

ピンポンを押しても応答が無かったので、
管理人さんにオートロックの開錠を求めましたが、住民ではないのでダメとの事。

毎朝顔を合わせているし、
事情も話したのですが頑として聞き入れません。
「融通が利ないな」と思いましたが、管理人としては合格です。

仕方がないので側面の柵を乗り越え侵入し、彼女の部屋に向かいました。

そこに彼女の姿はなく、しかも玄関のドアは開いたままでした。

万一に備えて土足のまま室内に入り、真っ先に寝室をのぞくと、
室内が散乱し、庭に続く大窓のガラスが叩き割られていました。

しかし割れたガラス片は中ではなく外に散乱しています。
彼女が中から自分で割ったのでしょう。

12時間の勤務が明けの後ですよね?

サービス残業

はい、夜勤明けで疲労はありましたが仕方がありません。

会社へ状況報告をおこない、
真知子さんの両親にも電話で知らせた後、
直接詳しい説明をするため、急いでご両親宅に向かいました。

ご両親のお住まいは、駅で言うと2つ先になります。

あと一点言い忘れましたが、
両親宅を訪れる前に彼女の携帯に電話を入れています。

通常110番通報が優先ですが、この場合はあえて行わず、必要かの判断を「真知子さん自身」にしてもらうことにしました。

留守電でしたので「3分以内に安否報告をくれ」と、さらに「折り返しが無い場合警察に捜索願をだす」と。

つまり「早く連絡してこないと警察沙汰になるよ」と?

そういうことです。

私が両親宅に付くと、
先ほど真知子さんから電話があり「自分は無事だから警察には通報しなくていい」と一方的に告げたとの事でした(笑)

私のところではなく両親に電話をしたのは、彼女も私が疑っている事に気づいたのでしょうね。
非常に迷いましたが、これまでの事実と自作自演の可能性をご両親に告げました。

かなり驚いていましたので、
あくまで私の推測である事を強調し、
いずれにせよ頭ごなしに追及しないように説得しました。

その後の事はよく覚えていませんが、彼女は両親宅には訪れず、
自分のマンションに帰ったと思います。

その夜もいつものように上番しましたが、彼女は気分がすぐれないとの事で朝まで寝室にこもっていました。

因みに割れたガラスは昼間の内に業者が交換したそうです。

2つ目の事件というのは?

事件その2

その後の数週間は特に異常なく服務していましたが、
ある日さらに信じられない出来事が起きてしまいました。

しかも今度は真知子さんにではありません、息子のハヤトの身にです。

彼女の身辺警備はトータルで3ケ月程おこないましたが、
2カ月目くらいから週2~3回のペースで息子もマンションに泊まるようになりました。
小学校にも歩いて通学出来るので、本当はマンションに居た方が都合は良かったのです。

私の業務に、ハヤトの登校時の付き添いが加わりました。

下校時は私がいないので、彼女が迎えに行くことになっていましたが、
実際は毎日ハヤト独りだったようです。

そんなある日いつものように上番すると、その日は来ているはずのハヤトがいません。

真知子さんの説明によると、
ハヤトが下校時に一人で下り坂を歩いていると、
何者かに後ろから押され、顔面から転倒したと言うのです!

えっ!大丈夫だったのですか?

後遺症の残るようなケガではありませんでしたが、坂を下っている時に押されたこともあり、
顔の広範囲を擦りむく痛々しい怪我でした。

その後ハヤトは再び祖父母宅に預けられる事になりましたが、
私はどうしても彼に確認したいことがあったので、翌日の上番前に祖父母宅を訪ねました。

私が彼にした質問は

  • 押したのが誰なのか?
  • 知っている人間か?
  • 性別・年齢は?

ハヤトの答えは
「一切見ていない何も分からない」の一点張りでしたが、
その口ぶりから犯人が誰かはすぐに分かりました。

真知子ですね?

母と息子

はい、ハヤトは健気にも母親を庇っていました。

もちろん証拠はありません。
ですから違うかもしれないし、違うならその方が良かったのです。

私はご両親に私の考えを伝えました。
口にこそしませんでしたが、ご両親も同じ考えだったと思います。

  • 真知子の精神状態は子育てができる状態ではない事
  • もはや家族間の話し合いで解決する問題ではない事
  • 精神科の医師が取り扱うべき案件である事

を伝えその足で彼女のマンションに向かい、
その夜も いつものように上番、朝まで服務していつものように下番しました。

その日の昼過ぎ就寝中に会社から電話があり、私は彼女の現場を解除されました。

彼女にクビにされたと?

ボディガード失格

詳細は聞いていませんが、彼女の逆鱗に触れたのは間違いないでしょうね。

今思うと私の行動は独りよがりな上、完全にボディガードの範疇を超えていました。

当時はそれが正しいと思いました、というより疑問にすら思っていなかったんですが・・・

Kさんの行動は間違いだったと?

大間違いでしょうね。

先ほども言ったように独りよがりの自己満足です。
私の行動は、真知子さんや家族からしてみれば大きなお世話ですから。

いずれにせよその日が真知子さんと会った最後になりました。

なので一体なぜ彼女があんな真似をしたのか?は結局分からないままです。

ただあの夜マサトが、頑なに犯人を見てないと言い張った姿は、今思い出しても胸が詰まります。

ちなみに私が抜けた後、別の人間が補充されましたが、
その後1カ月ほどで現場自体が終了しています。

ところで小宮とは一体何者だったのですか?

小宮の正体

そうでしたね、途中から一切登場しなかった小宮ですが、実在していたんです。

彼女の空想では無かったのですか?

ええ、元ヤクザで彼女の交際相手だった小宮と対峙する機会があったんです。

彼は足を洗ったあと、関東某県でスナックを経営していました。

一度彼女の依頼で、小宮との直接対決(話し合い)に立ち合ったんです。
小宮には内縁の妻がいて、二人でスナックを切り盛りしていたのですが、そこに乗り込んでいったんです。

凄そうですね・・・

まぁ修羅場ですね(笑)
これに関しては詳しくは語れませんが、
ただ小宮が持っていたのは拳銃ではありませんでした(笑)

一つ言えるのは小宮は加害者でもあり被害者でもあったという事です。

正直かなりレアケースだと思うのですが、もう少しステレオタイプ的な話を伺いたかったです。

総括!

そうですね(笑)
ある意味ドラマのような話ではありますが・・・

ただ身辺警備のご依頼って特殊な内容が多いので
一般の方からすると、ほとんどがレアケースみたいな話になると思います。

むしろ真知子さんの現場は、
身辺警護のイメージと現実がどれほど違うかがよくわかる、象徴的な案件とも言えると思うんです。

どの辺が象徴的なのでしょうか?

真知子さんのご依頼の場合、
脅威対象(攻撃の恐れがある相手)が「反社会勢力」
原因が「DV」です。

どちらも当時の日本には、ワードとしてはまだ存在していませんでしたが、
現在も一番ご依頼で多いのは
「反社」と「DV」です。

つまり今も昔もトラブルの本質に変化はありません。

随分昔の話の話と思いますが、よく覚えていましたね?

私のキャリアで一番古い現場が彼女の警護になりますが、
一番詳細に覚えているのも彼女の現場です。

その後も数多くの現場に入り相当数の経験をしましたが、
正直細かい点までは覚えていない現場も多くあります。

本当に身の危険を感じた体験は彼女ではなく、別の現場にあるのに不思議ですね。

いかがだったでしょうか?

身辺警備・ボディガードの現場といえば
舞台の袖からスターを見守るタキシードの男を想像なさった方が多いと思います。

そういった現場もありますが一部に過ぎず、
近年は今回の事例のような、一般の方からのご依頼は少なくありません。

加藤 一統

ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
ボディガードと探偵の依頼先をお探しの方に、条件やご要望に合う優良な警備・探偵会社を無料でご紹介。
長い業界歴を生かし「読みやすく価値ある」記事を提供いたします。

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【ボディガードの体験談】エピソード1|はじめての身辺警護:後編” に対して2件のコメントがあります。

  1. 荒井 吉晴 より:

    真知子さんの狂言だった訳ですね。
    この場合は先生は真知子さん
    に対する怒りみたいのは
    湧いて来ないでしょうか。
    また、仮にも相手が途中までわからない、ましてや
    拳銃まで持っている。
    心臓の高鳴りや、精神的なストレスはかなりのもの
    だったと思います。
    その克服は、慣れしかないのでしょうか。

    1. 暴犯被害相談センター 理事 加藤一統 より:

      コメントありがとうございます。
      怒りは感じませんでしたね。むしろ敵が存在しない事でホッとしました。
      特に慣れない頃は、得体の知らない敵への妄想が際限なく膨らみますので。

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