【ボディガードの体験談】エピソード3|或る身辺警護員の忘れられない体験:前編

赤と青の炎

今回は、ボディガード歴25年のベテラン、O氏の話をうかがいます。

これまで数回にわたり、現役ボディガードの方々に、はじめての現場での、貴重な体験を語っていただきました。

今回のO氏には、初現場の話ではなく、
「ある事件」の話を、お聞かせいただきます。

彼の長いキャリアにおいて、決して忘れられない現場とは、ドラマのような、激しく驚きの体験談でした。

※関係者への配慮から、一部アレンジを加えましたが、内容はすべて日本国内で発生した実話です。

或るボディガードの忘れられない体験:前編

本日はおいそがしい中、ありがとうございます。
まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?

自己紹介

Oと申します、本年で55歳になります。
身辺警護歴は25年になりました。

前職が自衛隊のレンジャーだったこともあり、
その経験と警護で培った手法をあわせた、
「セキュリティースクール」の運営もしております。

これまでは、ベテランボディーガードの方々に、
初現場の体験談を、きかせていただきました。
しかしOさんには、忘れられない現場があるとの事なので、
その体験をお話しいただきたいのですが。

もう20年ほど前になります。
当時わたしは、ある身辺警備会社で警護隊長を任ぜられていました。

そのころ都内のある宗教法人から、
関係者の身辺警備と自宅の警備、法人の施設警備をご依頼いただいたんです。

たまに宗教法人のご依頼は耳にしますね。
比較的多い案件なのですか?

宗教法人からの依頼

そうですね。
とくに昔はいくつもの団体から、ご依頼いただきました。

宗教法人は非課税なこともあり、金銭的な誤解を受けることが多いんです。
そのせいで、ふとどきな輩に目を付けられることが少なくありません。

どんな依頼だったのですか?

一言でいうと、組織の利権あらそいです。

まず今までのトップに変わり、
新しい人に変わりました。

それに伴い、昨日まで出入りしていた業者(仕出し屋・石屋・花屋など)も、
新トップの息のかかった業者に一新されたんです。

旧トップと旧業者たちは激怒しますよね。
なにせ生活がかかっていますから。

しかし彼らの打った手がなんとも悪かった・・・
暴力団に事態の解決を相談したんです。

つまり「宗教法人 対 暴力団」という構図ができあがったと・・・
具体的にはどのような警備を行いましたか?

宗教vsヤクザ

当初は制服組をふくめた5名ほどで、
トップの身辺・法人の施設・トップの自宅を、それぞれ警備しており、
最盛期にはトータル20名体制にまで膨らみました。

時期によって人数の増減はあったものの、
トータルで約二年もの長期警備になったんです。

ずいぶん長いですね!
国内のこの手(反社からみ)の警備で2年間というのは珍しいです。

それだけ内容が根深く、
一筋縄でいかない相手だったということです。
この2年間で、
普通の警備員が一生かけても遭うことのない経験をしました。

普通の警備でも2年もあれば、何かしらトラブルが起こるものです。
この内容だと、さぞ多くの事件があったのでは?

大きな事件については、後で語りますが、
細かいのはキリがありませんね。

「寺に入れろ!入れない!」で殴られるなんて、しょっちゅうでした。

あとは、火炎瓶を放りこまれたり、
クルマで門を突き破って、敷地内を暴走されたり・・・

ちょっと待ってください!
サラッと言いますが、どれも警察が介入するべき事件ですよ?

無法地帯

ええ、そうですよね(笑)

そうだ!まず話さなければならないことがあります。
この案件では、ほとんど警察が機能していない・・・
というかあてに出来ませんでした。

もちろんコトが起こるたびに110番通報はしていますけど、
まともな対応をしてくれるようになったのは、
のちにお話しする事件が起きてからです。

ただ事ではありませんね、詳しく教えていただけますか?

通常身辺警備をおこなう場合は、現場の所轄警察に
「こういう警備を実施しますので、お見知りおきください」
と、事前に報告します。

義務ではありませんが、
後々にトラブルが発生した場合に話が早いですし、
まともな身辺警備会社は必ずおこないます。

つまり万一事件が発生したときの予防線ですね。

警視庁自体が推奨していますね。いわば業界の慣例です。

頼れるのは己のみ

しかしこの案件の所轄署は、挨拶にうかがった時から、
こちらに好意的でないというか、この現場自体に否定的というか・・・
とにかく妙な態度でした。

どういうワケでしょう?
マルボウがらみだとヤル気になる警察も多いですけどね?

どうやら署長が面倒な案件に消極的だったようですね
ホントのところは分かりませんが、
定年が近かったのか?キャリアに傷をつけたくなかったのか?
そんなところだと思います。

どこの警察署ですか?

いや、それは言わない方がいいでしょう(笑)
もう20年も前の話ですし、
当然いまは署長さんも別の方ですから。

話はもどりますが、
細かい事件の数々とやらを、もう少し聞かせてください。

日本で一番ハードな現場

先ほど話したように、殴られることは珍しくありません。
こちらが手を出せないような、ギリギリの嫌がらせが、
毎日のように起こりました。
あとは先ほども言いましたが、火を使った攻撃が多かったですね。

警護対象の施設には、複数の建物がありましたが、
その多くが木造で、
クライアントにとって、何より恐ろしいのは火事だったんです。

しかし相手にとっても、
本当に火事になったら元も子もないんですけどね。

ところで警護対象の敷地は相当広かったのですか?

ああ、そうですね。
想像されているよりも相当広いと思いますよ。

おそらく1万坪以上ありますから。

それはすごい!
地形や建物の配置にもよりますが、
少人数で監視できる広さではありませんね。

ええ、そのため最盛期には総勢20名にプラス、
モニター室を設けて、カメラによる監視もおこなっていました。

他にはどんなトラブルがありましたか?

日々是修羅場

いま思い返すだけで、
放火が数回
自動車による暴走が2回
巡回中の車への衝突が1回
車の爆破が1回
不法侵入や街宣車で乗り込んでくることは数え切れず・・・

また聞き捨てならない点がありましたね。
車の爆破に衝突ですか?

はい。
車の爆発が目的というより、
車に放火した結果、爆発した感じですね。

衝突事故に関しては、
常時おこなっていた車両での定期巡回中に、
死角から、こちらの車の左脇腹に突っ込まれました。

どれもニュースになってもおかしくない話です。

たしかに。
しかし事件というのは、
警察沙汰になってはじめて表面化します。
警察がほとんど動いていない本件では、ニュースになりようがありません。

おっしゃる通り。
ニュースになっていない事件は、この業界ではたまに起こりますね。
しかしこれほどハードな現場だと、辞めるメンバーもいたのでは?

一枚岩!

ところがいなかったんですよ。
主要メンバーは5人でしたが、誰一人やめたいとは言いませんでした。
むしろ相手の攻撃が激しくなるほど、
こちらの闘志も激しくなったというか・・・

とにかく結束が強まったのは間違いありません。

ところで、執拗な攻撃の目的は何だったのでしょう?

敵の最終目的は「カネ」ですが、
そのためにもトップ会談の場が欲しかったのです。
しかし我々の任務は、部外者からの接触を一切断つことでした。

彼らとしては、一刻も早く交渉のテーブルを設けたいのですから、
我々警備のことを、親の仇のように憎んでいたはずです。

では、むこうがあきらめるまではエンドレスですね。

なんとしても夏までは・・・

ただ相手も、資金やマンパワーに限りがありますので、
一つの目安として8月中に決着をつけるというのが、
目標だったようです。

8月には法人の大事な行事があったので、
あえて多忙な時期に嫌がらせをエスカレートさせたのでしょう。

8月というと警備がはじまってから何か月ですか?

ちょうど8か月です。
その間は心身ともに、滅茶苦茶にハードでした。

しかし8月のXデーまで、
何とか警備を完遂する事ができたんです。

では大きな事件はそのあとですか?

9月に入ってからです。

8月を境に、攻撃がだいぶ落ち着き、
以前とはうって変わった平穏な日が続きました。

人がもっとも油断しやすい瞬間ですね。

注意一秒 怪我一生

はい!まさにその通りです。

クライアントからの指示で、
その頃は警備人数も、5人にまで減らされていました。
最盛期の4分の一ですね。

これは人間も動物も同じですが、
「吠えている時よりも、静かになった時が危険」
という法則を無視してしまったんです。

わたしにとって一生の不覚です。

そのときに事件が起きたわけですね。
詳しくお聞かせいただけますか?

攻撃が落ち着き始めてから2~3週間後のこと。

事件の当日は夜勤だったのですが、
そのころは、士気を低下させないように、
各ポジションを見回るのが、私の日課になっていました。

各配置を見回った後、モニター室でカメラを見ていると、
何者かが、裏のカベを乗り越えている姿が映ったのです。

すぐさま現場に向かいましたが、
私が到着したとき、人影は消えていました。

侵入者対応のルールは設けていましたか?

静かな夏の夜の出来事

警察への通報は毎回おこなっていました。
当然そのときも入れています。

ただし警察の到着は、いつも驚くほど遅かったですが・・・

周囲を見回りましたが人の姿はなかったので、
モニター室に戻り、監視を続けました。

この日も警察はいつまでも来なかったんですね?

不審者が、カメラに映ってから20分後くらいに、
今度は先ほどとは別のカメラに、人影が映ったんです。
モニター越しのその姿は、機動隊の制服のように見えました。

「なぜ機動隊なのか?」疑問に思ったものの、
その場所に一番近い隊員に
「警察が到着したようだ」と無線連絡を入れました。

私もそちらに向かおうと、
モニター室をあとにしたのですが、
その直後、
部屋を出て30秒くらいだったと思います。

まず最初に「パン‼」と1発、
その後「パン‼パン‼」と続けざまに2発、
数十メートル先の、2度目に人影が写った方向から、
乾いた発砲音が響きました。

銃声ですか!?

銃撃と凶弾

そうです。
反射的に音のした方向に走りました。
細かい導線はややこしいので、説明をはぶきますが、
現場に向かう途中、
15mくらい先に、走って逃げる若い男の背中が見えたんです。

そのまま正門の方向へ逃げる男を追跡しましたが、
正門を出て50メートルくらい先の十字路で見失ってしまいます。

追跡をあきらめて、
銃声の現場に急いで引き返しているその途中、
わたしの右前方の角から、
50歳くらいのパンチパーマの男が、
鉢合わせ寸前のタイミングで飛び出してきました。

侵入者は2人組だったんですか?

そうなんです。
男も私に気が付き、それと同時にウエストポーチのチャックを開け、
素早くポーチの中に右手を入れました。

拳銃を抜こうとしていた?

拳銃vs空手

そうです!
というかすでに銃を握っているのが見えました。
明らかに危機的な状況です。
その時点で、男と私は手が届きそうな距離、
そのまま突っ込むしか選択肢はありません。

走った勢いのまま、両手で銃を押さえに行った結果、
思いっきり体当たりをくらわす形になりました。

よい判断でしたね。

逃げたら背中を撃たれていたと思います。

そのあと取っ組み合いになり、
相手は両手を使って、引き金を引こうと必死でした。

この場合は何よりも、銃を使えなくすることが最優先です。
しかし現実は、手首を極めてとか、当て身をくらわした隙にどうこうなど、
映画のようにはいきません。

どう決着がついたのですか?

今も残る傷跡

まず銃を奪おうとしましたが、相手も死にもの狂いなので、
一度つかんだ道具を、簡単には放しません。
それどころか私に向かって発砲しようと、
必死の形相で睨んでいます。

しかしそんな密着状態で、引き金を引かせるわけには絶対いきませんからね。

相手の獲物は、装弾数5発のリボルバーでしたので、
左手の四指と手の平でシリンダーを覆い、さらに撃鉄が上がらないよう、親指で押さえて、銃が撃てない状態にしました。

その間になんども、左手親指の付け根を噛み付かれたので、
今でも歯形が残っていますよ。

生々しい話ですね。
それで決着までどれくらい時間がかかったんですか?

対拳銃・・・恐怖との闘い

実際には2~3分くらいだったかもしれません。
しかし体感的には恐ろしく長い時間、
そうですね・・・10分ほど格闘したような感じです。

とにかく気を抜いたら殺されるので、
根気と体力勝負になりましたが、
力づくで何とか拳銃をむしりとりました。

奪うと同時に弾を抜き、
抜いた弾をスーツのポケットに入れ、
拳銃を数メートル脇に放り投げたんです。

そのまま取り押さえたわけですか?

いいえ。
あらためて対峙すると、
犯人がファイティングポーズをとったので、
疲れを感じる間もなく、犯人に向かい前蹴りと、
続けて顔面に正拳を叩き込みました。

《後編に続く》

加藤 一統

ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
ボディガードと探偵の依頼先をお探しの方に、条件やご要望に合う優良な警備・探偵会社を無料でご紹介。
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