【ボディガードの仕事】続:身辺警護必携!警備の現場で役立つおすすめ書籍3選
この記事の著者:一般社団法人 暴犯被害相談センター
代表理事 加藤一統 (ボディガード歴25年)
以前紹介した【ボディガード必携】身辺警備の仕事に役立つ|おすすめ書籍3選の続編です。
身辺警備には、実務に則した教材が存在しないため、積極的に学ぶのであれば、各ジャンルから良書を選ぶしかありません。
今回もボディガードにオススメの本を3冊選びました。
1.身辺警備業務に役立つ書籍3選
前回は「警備基本」「応急手当」「会話術」の3テーマから各1冊選びました。
今回は特にジャンルを考えずに選んでいますが、
医療従事者や会計関係の士業など、専門職の方向けの本も含まれていますので、ハードルが高く感じるかもしれません。
ただし専門書と言っても、初心者が理解しやすい平易な文章ですので、意外と読みやすいと思います。
実はボディガードになるために、必須のスキルというモノはほとんどなく無く、各自の資質やパーソナリティに拠る所が多いのです。
矛盾して聞こえるかもしれませんが、そのぶん身に付けるべき知識は多岐に及び、自身の弱点は「チーム」もしくは「努力」で補うしかありません。
既に業務として身辺警備に当たっている方・今後目指している方は、格闘技は修得されていると思うので、その他のジャンルに時間を割いた方が効率的です。
1-1會社謄本 分析事始
おすすめの理由
「会社謄本はその会社に商道徳があるかを見極めるリトマス試験紙(本文から引用)」
その判定方法を、ビギナーでも理解できるように細かく解説しています。
一見無味乾燥な謄本ですが、実は情報の宝庫であり、単なる提出書類ではありません。
ただし士業やコンサルタントなど、与信調査を失敗できない方のための本なので「俺はボディガードだから警備以外に興味ないよ」という場合は読み飛ばして大丈夫です。
あと新規取引に不慣れな経営者さんが意外と多いので、そういう方にも間違いなく興味深い内容です。
しかし企業調査と方法に興味のある方は、
興信所がここまでレシピを公開して差し支えないの?と心配になるほど超実践的な内容ですので、複数回読み直すことをおすすめします。
会社謄本とは通称で、登記事項全部証明書(履歴・現在・閉鎖ほか)のことを指します。
これらから得られる情報は値千金なうえ、
今日ではネットで全国の謄本を閲覧 ・ 取得が出来(一部例外あり)、大幅に時間が短縮できます。
謄本から相手の実態を読み解く方法をご存知の方は少数ですが、身に付ける事で詐欺被害の回避と、場合によっては莫大なコストの削減になります。
経営状態など容易に手に入らない情報が、信ぴょう性をもって入手出来ます。
本書の見どころ
実際にあった事件の謄本を例に解説しているので、具体的で分かりやすいです。
会社謄本を見た事がある方なら、
「ドコに重要な情報が書いてあるの?」と疑問に思うでしょう。
詐欺師や反社は自分が疑われている事など百も承知で、謄本に化粧(偽造ではない)を施します。
その方法は巧妙で、カラクリを知らない人にはまず見抜けません。
いわくつきの会社でも、謄本の記載変更を繰り返すことで、極めて優良な会社に装う事が可能なのです。
(著者は「謄本のロンダリング」と呼んでいます)
要点が多いので、一例だけ紹介すると、
設立年月日と移転の頻度に対する整合性があります。
仮に合併や買収が起きても、謄本上その会社の「設立の年」が変わる事はありません。
多くの会社が起業後数年で倒産します。
逆に言うと創業年数に比例して信用も上がるため、
実質倒産しているような企業でも、老舗かのように見せかければ、信用を得る事が出来るのです。
ただしそのためには、
本社の移転・役人の総入れ替えなど、登記上の大改修が必要になり、その様子は謄本をさかのぼる事で暴くことが可能です。
1-2 医療職のための包括的暴力防止プログラム
おすすめの理由
「暴力性や攻撃性は、人が生き延びるに必要な属性である。(中略)ルールをつくることによって、これらをコントロールしているに過ぎない。(本文より引用)」
包括的暴力防止プログラム「CVPPP」は
Comprehensive(包括的) Violence(暴力) Prevention(防止) & Protection(保護) Programの頭文字であり、
精神科の医療現場で、興奮した患者さんによる暴力を、安全に鎮めるための手法です。
大雑把に言うと、精神科に勤務の医師・看護師さんに向けての護身(本書内での呼称=ブレイクアウェイ:離脱技術)の教本ですが、
体術にとどまらず、むしろ暴力発生の防止や、当事者全てのメンタルケアなど、トータルケアが目的です。
医療従事者も警護と同じく、一つ間違えると暴力の「被害者・加害者」どちらになる可能性もあります。
「なぜ暴力に走るのか?」「原因は何なのか?」をロジカルに解説しており、暴力への向き合い方と心構えにおいて、
同じく職業的に暴力と向かわざるをえないボディガードも学ぶべき点が多い一冊です。
特に病院移送にたずさわる方は、不要な暴力的衝突を避けるためにはもちろん、自身の行動・言動が、患者さんやそのご家族にどう映るか?を戒めるためにも一読をおすすめします。
本書の見どころ
本書は、精神科の患者さんによる、医療従事者への暴力を想定しています。
そのため暴力の行為中だけでなく、
暴力の「発生前~後」の、患者・スタッフ双方のメンタルケアまでを包括して考えねばなりません。
暴力に暴力で対抗するのではなく、心理学的知見から、言語やその他のコミュニケーションで怒りをやわらげ、おだやかさを取り戻すことを最初の目標にします。
CVPPP実施のプロセス
- 誘因期(不安):不安の軽減・問題解決
↓ - エスカレート期(怒り):鎮静
↓ - 危機相(攻撃):全員の安全確保
↓ - 停滞・回復期(怒り):再攻撃防止
↓ - 抑うつ期(不安):暴力への内省・代替行動の獲得・通常生活へ復帰
何より相手のプライドを傷つけない事が重要であり、その点はボディガードが対峙する全ての警戒対象者と同じです。
過剰防衛に対する警戒もボディガード同様ですが、看護士さんと患者さんの場合、暴力の後も人間関係は継続するため、
スタッフの行動や言動が、後のコミュニケーションに悪影響をあたえない配慮も必要になるのです。
身辺警護の場合、クライアントの安全確保のため、攻撃者をいたわる余裕はほぼ無く、優先事項でもありません。
しかし案件によっては、警戒対象者が親族であるなど、クライアントにとって関係の断てない相手の場合もあります。
間に立つボディガードが、クライアントと警戒対象者の関係を悪化させることは決して許されません。
医療職のための包括的暴力防止プログラム DVDブック [ 包括的暴力防止プログラム認定委員会 ]
1-3 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学
おすすめの理由
人が感情を落ち着かせるための仕草(なだめ行動・ノンバーバル)の種類と、仕草が表す「喜怒哀楽」のサインを紹介しています。
以前紹介した「暴力を知らせる直感の力」と同様に、実際の現場を知る方による著書なので、真偽不明な肩書の著者にありがちの、机上の空論や聞きかじりは無く、薄っぺらさはありません。
この本も、読後すぐに人の心が見破れるような魔法の本ではなく、使いこなすためには経験と修練が必要です。
また本書内でも「100%正確にウソを明るみに出せるような手法も機械もテストもないし、そんなことが出来る人もいない」と断言しています。
しかし本書が詳細に解説している「感情⇔仕草」の関連は信頼度が高く、身辺警備の性質上、間違いなく業務で役に立ちます。
まずは、会話時に相手の「どの部位」を見るか?を自分なりで構わないので具体的に設定してください。
漫然と見ていても、何も目に入っていない事はよくあるので、具体設定だけでも観察力が大きく上がります。
ただし観察の際は、さり気ない配慮を忘れてはいけません。
本書の見どころ
最も感情に正直なのは、顔ではなく「脚と足」など、説得力ある記述が多く、飽きる事がありません。
仕草が発するシグナルを、かなりのボリュームで紹介していますが、それらを丸暗記する事に、あまり意味は無いように思えます。
人の心を見抜く必要に迫られた時の最終的な判断は、自分自身の経験から導き出すべきです。
覚えてほしいのは「仕草=嘘or本当のサイン」ではないものの、何らかの感情のサインである事は間違いということです。
例えば、浮気を疑われた夫が、妻の追及に対しなだめ行動を取ったからといって、浮気の証拠とはいえません。
しかし何らかのストレスを感じている事は間違いがなく、ストレスの要因を考える材料として、仕草は重要なヒントになるのです。
警備でも特に万引きを警戒する「保安警備員」はこのスキルに長けており、皆さん口を揃えたように「万引き犯は店に入った瞬間に分かる」と言います。
これは やましい人間特有の「仕草」を彼らが知っているためです。
言葉以外の情報を意識することで、行動予測の判断材料が増えることは間違いありません。
FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫) [ ジョー・ナヴァロ ]
2.まとめ【ボディガードの教科書】
身辺警備のスキルは現場で学ぶものが多く、経験でしか身に付かない部分が少なくありません。
必要なレクチャーは、他の業種と同様に、現場の待機中や宴席での先輩からの口伝が多く、しかも実践的な内容ほどその傾向があるようです。
ボディガードにおいても一人前になるためには、最低限必要な期間というのはあります。
ただし一日も早い成長を目指し研鑽することは可能ですし、ノンビリした成長を望む人はいないでしょう。
また能動的に正しい勉強する事で、確実に早い成長が望めます。
冒頭でも述べたように、身辺警備にはテキストや教科書がなく、
限られた時間の中で、何を学ぶべきか取捨選択するしかありません。
今回も、私が役に立つと実感した本の中から3冊を紹介しました。
琴線に触れるモノがありましたら、ご一読下さい。
ご要望があればパート3も掲載しますので、ご意見ご感想よろしくお願いします。
ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
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