【弱くてOKな護身の教室】ボディガードが習慣にしている事とは

この記事の著者:一般社団法人 暴犯被害相談センター
代表理事 加藤一統 (ボディガード歴28年)

ゆるくて弱そうな侍

一般的に護身術とは、格闘の技術を指します。
体力で勝る男性が有利ですが、不意を衝かれると有段者でも簡単には防げません。
護身術を使うまでの過程は、分解すると以下の3ステップになります。

  1. 危険に気付く
  2. 危険から離れる
  3. 無理なら戦う

そもそもの目的は、戦いではなく無傷でその場から離れること。
つまり最初に磨くべき技術は1と2です。
それを身につけるのに、体力や体格は必要ありません。

本記事は、身を守る根本的な方法を、ボディガードの手法から流用しています。
ただし難しい内容は含みません。読み終えた直後から使えるものばかりです。
簡単なものを1つか2つはじめるだけでも、生活の安全に必ず影響があります。

1,男も女も格闘家もやることは同じ

護身術とは、反復動作で身につけた技と反射神経で危険を避ける技術です。
しかし失敗が許されない状況で、確実に攻撃をさばく事は容易ではありません。
ほかに簡単な方法があれば、そちらを優先するべきでしょう。

 1-1 「事前」と「最中」2つの行動

スタートラインに並ぶ人々レインボーカラー

「襲われたらこう動く」というのが、最中の行動である「護身術」です。
一方「襲われる前に襲撃者を見つける」のが事前の行動になります。
多くの人は、派手で分かりやすい護身術に目を向けがちですが、事前の行動次第で護身術は必要がありません。
そして危険に気付くのが遅れると、有段者でも無傷では済まず何らかの被害を被ります。

護身術はクルマのエアバッグと同じです。大切な技術の一つですが、最優先する装備ではないのです。
何よりも重要なのは「逃げる・隠れる」など、選択肢があるうちに危険に気付くことです。

そして「気付き」には方法があるので、個人の性格・注意力・才能は関係ありません。
トレーニングすれば誰でも身に付きます。
そうでなければ、力の弱い人には身を守る方法が無いという事になります。

 1-2 格闘技が出来なくても出来る護身とは

合気道

そもそもゼロから護身術を学ぶには時間が必要です。
趣味やライフワークには最適ですが、護身を目的に護身術を学ぶのは効率的と言えません。

そして多くの人にとって、まずは戦いよりも戦わずに済ませる方法が優先であり、しかも護身術よりも簡単です。

これは女性に限ったことではありません。腕に自信のある男性でも同じです。
いざ格闘になった場合、その場は無事で済んでも「逮捕・拘留・裁判・賠償」など、何らかの損害やペナルティーが必ず発生します。
それだけではありません。自分の身は力で守れても、隣の人を護るには「気付き」のスキルが不可欠だからです。
本記事は護身術を否定していません。ただし現実に暴力に巻きこまれようとした時、取るべき行動には優先順位があります。
格闘技系経験が豊富な方ほど、この点を無視しがちなので要注意です。

 1-3 護身術より圧倒的に簡単な方法

危険が迫っていると察知した女性

護身術の前にやるべき事はたった2つです。

  1. 犯罪者に狙われにくくなる
  2. 犯罪者の存在に早く気付く

前提として、犯罪者は無作為にターゲットを選びません。
恨みなどの理由で特定の人物を狙うケースは除いて、少しでも犯行が達成しやすい相手を選びます。
つまり犯行のハードルが高いと認識した相手は敬遠します。

そして護身の結果を分ける、もう一つの大きなカギは「相手との距離」です。
距離が遠ければ、接触するまでの時間が長くなります。
時間的な余裕は「逃げる・隠れる・通報する」など選択肢を増やし、ときにはこれら全てがおこなえます。
逆に1m手前で襲撃者に気付いては、世界チャンピオンでもお手上げです。
普通の人であれば尚のこと、体が硬直しなす術がないでしょう。

もしもの時に何よりも欲しいのは、コンマ1秒でも多くの時間です。
犯罪者との遭遇率をゼロにはできませんが、この時間を増やすことは出来ます。

2,危険に気付き、近づけない方法は

犯罪のルールと標的を決めるのは犯罪者ですが、連中は少しでもラクに目的が達成できそうな相手を好みます。
まずは犯罪者の好みを知り、好みにならない必要があります。

 2-1 具体的な方法①

歩きスマホ

通り魔のような無差別犯の供述で「誰でもよかった」という言葉をよく聞きます。
ただしこれには「自分よりも弱ければ」の一言が抜けています。

もちろん性別や年齢など、被害者には変えようのない条件もあります。
ただし誰であっても、今よりも被害に遭う可能性を減らすことは可能です。

まず連中が狙うのは「逃げられる可能性が低く、反撃の心配がない相手」です。
さらにその中でも、なるべく「隙のある人」を選びます。

現代において、隙が一目瞭然なのが歩きスマホです。
これほど分かりやすいサインを、犯罪者は見逃しません。
もしナイフを持って近づいても、周りが教えないかぎり簡単に手の届く距離に近づけます。
周りに人がいないからと夜道で歩きスマホをする人がいますが、暗闇で明るい画面を見つめた瞳は通常の反応ができません。

とはいえ現代社会で「外でスマホを見るな」は現実的な注意喚起とは言えないでしょう。
ほとんどの人は電車に乗れば開き、道に迷えば地図アプリを使います。
大事なのはメリハリです。見てはいけないタイミングと場所さえ理解していれば問題ないのです。

スマホから目を離して周りを見渡す機会を増やすと、潜在意識に警戒心が刷り込まれます。
人が無意識の時でも、脳は関心のある事に敏感です。
何気ないときに興味のある人の名前が、目や耳に飛び込んできた経験があるでしょう。
防犯に関心がある人の五感は、リラックスした時でも危険を察知しやすくなります。
これが護身の最大の武器「危険センサー」です。

また歩きスマホ(猫背)をやめたら、前を見て今よりやや胸を張ってみてください。これには2つ大きな効果があります。

正しい姿勢とストレートネック
  1. 視界が広くなる
    死角が減ると、異常を検知するスピードが早くなります。
    下を向いた状態と上を向いた状態では、目に入る情報が最大で20倍変わります。
  2. 隙が無く見える
    動物の擬態と同じです。胸を張ると隙が無く自信があるように映り、犯罪者の獲物リストから除外される可能性があります。

腰骨(仙骨)をやや前傾させると、背骨がS字になり自ずと視線が前方を向きます。
過度な前傾は身体への負担になりますが、やや仙骨が前傾した姿勢をキープすると危険の気付きが早くなります。

冷酷な現実ですが、犯罪がなくならない以上 誰かは被害に遭います。
自分が被害者にならない即効性の高い対策は、犯罪者が選ばないタイプの人になる事です。

 2-2 具体的な方法②

パーソナルスペース

犯罪者を寄せ付けない方法を説明しましたが、接近を完全に排除はできません。
暴力を避ける方法はいくつかありますが、相手との距離が遠ければ「逃げる、隠れる、戦う」など行動が選べます。
気付くのが遅れるほど行動が限られます。
つまり決め手は腕力ではなく、少しでも遠くから危険に気付く「眼力」です。

相手との距離を、4段階に分けて解説します。
以下で想定している相手は「キョロキョロと獲物を物色する不審者」です。
※イメージしやすいように距離で分けましたが、実際は「間にどれくらい人がいるか?・障害物があるか?」など流動的な条件の方が重要です。
また犯罪者の熟練度が上がれば更に距離が必要です。
もしも見通しの良い場所で、自分を標的と決めて向かってくる場合は、15m以上でも安全ではありません。

  • 15m以上
    人通りのない道、人混み、または電車内など状況によりますが、この距離であれば「逃げる隠れる」など選択肢があります。
  • 約15~10m
    既に危険な距離ですが、場合によっては逃げるか、反撃の手段があればその準備ができます。
  • 約10~5m
    かなり危険な距離です。逃げるにしろ戦うにしろ、運・体力・スキルが必要です。
  • 4,5m以内。
    この距離で危険に気付くと、何も抵抗できない可能性が高いです。

お気付きかもしれませんが、電車内は状況が変わります。
路線によりますが、1車両の端から端が15m程度です。
つまり安全圏から発見するのは無理ですが、多くの場合他の乗客がいるので、10mがレッドゾーンとは限りません。
表現は悪いですが、他の人が盾になるとも言えます。
ただしその反面死角が多く、近い距離でないと危険に気付くのが難しくなります。
だからこそ前項のスマホの話と、次項「具体的な方法③」が重要です。

 2-3 具体的な方法③

電車内

いち早く危険の接近に気付くには、視線の「方向」と「タイミング」を意識する必要があります。
見るべきポイントを意識的することで、警戒心の意識下への刷り込みが強くなり、違和感に気付きやすくなります。

  • 5m先・5秒後の予測
    「進行方向に誰がいるか?」「死角に何があるだろう?」「後ろからくる足音に変化はないか?」
    視線を数メートル先、耳は数秒後を予測すると、自分の半径数メートルで起きている出来事が認知しやすくなります。
    5mとはあくまで目安です。実際は2m先の曲がり角かもしれないし、10m先の黒いワンボックスカーかもしれません。
    僅か先の未来を想像すると歩く速度に緩急ができ、自然と安全なルートを選ぶようになります。
    また具体的な方法①のように姿勢を正すと、周辺情報が目に入りやすく護身的パフォーマンスが上がります。
  • 電車内では乗り降りする人を見る
    電車の中では、駅に停車したタイミングで乗り降りする人を観察しましょう。
    現代において不注意の最大の原因はスマホ画面への没頭です。
    ちなみにスマホをしているとき、近づく他人に気付くのは1.5~3m手前。
    座っている時はさらに短く1m以内。相手に害意があれば手遅れな距離です。
    乗降者を気にすると、自ずと画面から目が離れ、体内の警戒のリズムが促進します。

ただしこれらは完璧である必要はありません。むしろ100%を目指すと心のバランスが乱れます。
乗降のチェックであれば、最初は10駅中3駅も達成できれば合格。慣れた後も半分できれば十分です。

2-4 護身用品は「催涙スプレー」一択

ここまでの方法を実践すれば、犯罪者に狙われる確率が激減します。
とはいえ接近を100%防ぐのは不可能です。
物理的に攻撃を防ぐ状況も想定するべきです。

ボディガードの仕事は戦う事と思われがちですが、護身術(武術)は信頼性からして警護プランには組み込めません。
とはいえ最終的な手段として、戦闘になる可能性はあります。
その際より抵抗力を上げるために、我々は武器を使います。
これは一般の方も同じであり、むしろ一般の方にこそ武器が必要と言えます。
ただし格闘技経験のない方が、椅子や傘など身近な物を使うのは簡単ではありません。

現実的なのは、身を守るために設計された護身用品です。
ボディガードは警棒を使いますが、女性が使いやすいのは催涙スプレーです。
実戦では相手の凶器が届かない距離からの攻撃が理想であり、催涙スプレーにはそれが可能です。
最低限の練習は必要ですが、催涙スプレーは最小の訓練で高い効果が得られる効率の良い道具と言えます。

 催涙スプレー使用のポイント

  1. 少しでも安全を図るため、射程距離のギリギリから噴射する。
  2. 相手が近づいた分だけ後退する、または左右に回り込み間合いを保つ。
  3. 相手と自分の間に障害物を挟み、近づけないように利用する。

しかし本番でいきなり使うのは危険です。想像と実際の飛び方が違ったら命取りだからです。
「どのように飛ぶか?どのくらい飛ぶか?」を確認するために練習は必要です。
問題は練習場所です。考えなしに噴射すると異臭騒ぎなど大問題になります。
都心などエリアによっては難しいですが、山林や河川敷など人の来ない場所を探すしかありません。
多少遠くても、おこなう価値は必ずあります。

購入するときは同じものを2本買い、噴射距離や拡散の仕方を知るために1本は使い切ってください。
(使いかけのスプレーは噴射力が落ちます。またノズルに付着した液は完全に拭き取れません)
また練習の際は、誤って浴びた場合のために、多量の水とタオルを用意しましょう。

※護身用品の所持と罰則について

3,住まいの安全を確保する

 侵入者にとって2つのハードルがあります。心理的な壁と物理的な壁です。
これまで外出先での方法を説明しました。
しかし、より多い時を過ごす自宅は、防犯の優先箇所です。

 3-1 犯罪者が近寄りにくい家

犯罪者が近寄り難い家

たとえば警備員が立っているゲートを、悪意のある者が通るのは難しいでしょう。
物理的な制止だけでなく、心理的プレッシャーが掛かるからです。
もちろん一般家庭に警備員を置くのは現実的ではありませんが、コストをかけずに近い効果を得る方法はあります。

警備員をプレッシャーと感じるのは、そこが誰かの占有地であり、無関係な人間は入れないという意思が明白だからです。
テリトリーが一目瞭然の場所は、侵入時の心理的ハードルが上がります。

ストーカーのように特定のターゲットに執着する者は別ですが、空き巣や詐欺、痴漢など多くの犯罪者は、複数の候補からターゲットを選びます。
防犯性の高い低いは比較で決まります。その基準となるのは周りの人や家です。
つまり家庭の防犯に大掛かりなシステムは必要ありません。
住いの大きさや外観に相応な範囲で、他の家よりも防犯意識をアピールするだけで狙われる可能性が下がります。

具体的には下のような方法があります。

  • 閉まった門扉
  • 張られたチェーンやロープ
  • 私有地を伝える看板等
  • 「おはよう・こんにちは」の挨拶
  • 手入れがされた花壇や植木
  • カメラやセンサーライト

どれも簡単で低コストですが、これらの有無で考えた場合、無い方が狙われやすくなります。
池田小を襲撃した犯人は「もし門が閉まっていたら入らなかった」と供述しているのです。

また社会学者の小宮信夫先生の著書に「犯罪者は花を嫌う」という記述があります。
手入れがされた花は、管理する人が近くにいる事を連想させます。
成功率を重視する犯罪者が、目撃される危険の少ない場所を選ぶのは当然しょう。

 3-2 侵入しにくい家

侵入しにくい家

心理的な壁を物で例えるとフィルターです。
つまり全ての侵入者は防げないので、フィルターを通過した者は物理的に防ぎます。
余裕があれば、セコムやアルソックのようなホームセキュリティー会社と契約するべきですが、量販店で売られる防犯グッズでもそれなりの効果が期待できます。
なぜならば、それすらやっていない人の方が多いからです。

  • ドアの二重鍵
  • 窓の防犯フィルム
  • 窓の補助錠
  • 窓用ブザー
  • 庭(裏)に敷かれた防犯砂利

これらは全て物理的なハードルです。すべて設置する余裕がなければ、できる範囲で構いません。

またSNSの投稿は、犯罪者の情報源としても使われます。
あなたの投稿を精査することで「通勤や帰宅時間・自宅の間取り・行きつけの店・習い事・同居人の有無」など、犯行に必要なルーティン情報を探られる可能性があります。
そして最終的には、現地に足を運び照らし合わせます。
狛江の強盗殺人では、1年前から屋根のリフォームを名乗る者が下見をしていたそうです。
昨今の事件で明白なのは、不在だけでなく在宅時間を知られる事もリスクがあるという事です。

もしも侵入された場合、自宅は一番安全な場所から一番危険な場所に変わります。
いくらセキュリティーを強化しても、不用意にドアを開けては全く意味がないのです。

 3-3 まとめ

まとめ

残念ながら今後何百年経とうと、犯罪が撲滅される日は来ません。
つまり必ず誰かが被害者になります。
ただし自分や大切な人を被害から守ることは可能です。

やはり防犯性を決めるのは、いくらコストをかけたではなく周りとの比較です。
例えば、いつも鍵にルーズなAさんと施錠を怠らないBさんでは、Bさんの方が被害に遭う確率が低くなります。
周りと比較して「平均以上か?以下か?」は防犯の基準なのです。

今回の記事で紹介した内容は簡単な事ばかりです。ただし実行している人は多くありません。
つまり1つでも多く生活に取り入れれば、その分だけ安全性が増します。

安全の最大の敵は横着です。多少の面倒は、安全の対価として払う必要があります。

※護身用品の所持と罰則について

護身用品は暴力から我が身を守るために必要な物です。
しかし悪用ばかりが報じられ「危険な者が使う凶器」という、誤った認識が広まっています。
また催涙スプレーや警棒に違法性はなく、所持や購入は全く問題ありません。
銃刀法に抵触するかのような書き込みを散見しますが、非合法な刀剣や銃器とは全く違います。
銃刀法には抵触しませんが、正当な理由がなく持ち歩くと「軽犯罪法」に問われる可能性があります。
普段身につけてこそ護身用品ですが、検挙の可能性がある以上、持ち歩きの推奨はできないのです。
ここで「正当な理由」とは何か?という疑問が湧きます。
しかし具体的な理由が明示されておらず、現場の警察官の判断に委ねられているのが実情です。
そして多くの警官は「護身のため」を正当な理由とは認めません。(悪用目的でも言い訳ができるので当然といえます)
しかし女性の場合「護身のため」の主張が理解されることもあるようです。
多くのお巡りさんは事情を察していますが、立場上認めるわけにもいかないのです。
襲う人間に非があるのは当然ですが、結果は誰も保証してくれません。
つまり護身用品の携帯によって生じる結果も「自分の責任」です。
個人の見解ですが、今あなたが暴力に危険を感じているなら、軽犯罪法にひるまず携帯するべきと思います。
自分の「命」と「軽犯罪法違反」ハカリにかけるまでもありません。
メリット・デメリットを理解したうえで判断する事が、護身用品と付き合う唯一の方法です。

加藤 一統

ボデタンナビの運営者
加藤一統 一般社団法人暴犯被害相談センター 代表理事
民間警備会社で1995年より身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年
ボディガードと探偵の依頼先をお探しの方に、条件やご要望に合う優良な警備・探偵会社を無料でご紹介。
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